2008-09-20

どうなってるの?東京タワーと新東京タワーの関係って

放送局側は「6社歩調合わせて検討」

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

東京タワーを運営する日本電波塔(東京都港区、前田伸社長)は、NHKと在京民放5社に対し、地上デジタル放送(地デジ)への完全移行後も東京タワーの利用を続けて欲しいと、9月21日、協議を申し入れた。在京6社は、墨田区に建設予定の高さ610メートルの新東京タワーへ、くら替えを予定している。

これに対して、新しい東京タワーを建設する予定の東武鉄道の事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長)は9月28日、新東京タワーの施工者を大林組に決定したと発表した。

建設予定地では、10月6日に光でタワーを表現するイベントが地元有志によって催された。10月第2週からは、大林組により工法を確かめるために試験杭(くい)を打つ作業が建設予定地で始まっている。2008年の新タワー着工に向けた準備が進むなか、いったい東京タワーと新東京タワーの現状はどうなっているのだろうか?

東京タワーは333メートルから360メートルへの改修計画

今回、日本電波塔が発表した計画は、東京タワーの全高を現在の333メートルから360メートル程度にし、地デジ用アンテナの取り付け位置を80~100 メートル高い位置へ移設する、というもの。また、敷地内に送信所を新築し、タワーの改良費40億円と送信所の新築費35億円の計75億円を自社負担する。賃料についても、現在の価格より抑えるという。

 これはテレビ局にとってはオイシイ話だ。なぜなら、現在、最大の稼ぎである広告売上が、消費者金融の出稿削減やインターネットなど他媒体との競争激化で、減少傾向にある。そのなかで、地デジ用の送信設備費用を丸抱えしてもらえることになるからだ。反面、今まで進めてきた新タワー向けの設備整備を見直す必要がでてくる。

計画そのものは、04年に在京6社が新タワー構想を発表した直後に、日本電波塔が提案していたもの。それを9月に公表した理由について、同社の高村啓之・総合企画課長補佐は、「東京タワーの強度面の安全性、地デジの受信エリアなど、調査結果がまとまったからです」と話す。

高村課長補佐によると、総務省が求める2011年初頭から、地デジに完全移行する同年7月までに、アナログ放送と同等の受信エリアをカバーしなければならないという条件は、東京タワーで満たせるという。送信アンテナの位置が変わる新タワーと異なり、家庭などに設置されている受信アンテナの位置は現在のままで良いため、電波障害対策費がほとんどかからない点もメリットだ。また、1958年の竣工から来年で50年を迎えるが、強度の調査をした結果問題がないという。

記者が以前入手した資料では、千葉県君津市にバックアップ用の小型タワーを建てる計画があった。川田正宏・総合企画部長によると、「現在では各放送局さんが自前でバックアップ施設を持たれているので、不要になりました」とのことで、東京タワーの改修と送信所の新設のみで、新東京タワーに対抗できるようだ。

放送局の反応は?

東京タワーの破格ともいえる改修計画の発表を受け、放送局側はどう考えているのだろうか。

10月4日に行われた、橋本元一・NHK会長の定例会見要旨によると、「できるだけ視聴者に迷惑をかけないように、NHKと民放各社が歩調を合わせ、統一した考え方で進めていくことが基本」と、記者からの質問に応じている。

一方、民放の君和田正夫・テレビ朝日社長や豊田皓・フジテレビ社長も定例会見でこの質問に答えている。君和田社長は、「1社としてどちらがいいとは今申し上げにくい状態。日本電波塔からの協議申し入れについても、6社として対応していきたい」と回答。NHK、民放ともに在京6社で協調して協議を行っていく姿勢を示した。

新東京タワーは金銭面で折り合いつかず?

「報道ではいろいろ言われていますが、大枠では放送局側と調整はとれていますよ」。ある関係者はこう語った。「いろいろ言われている」というのは、新タワーの事業主体「新東京タワー」と放送局との間で、賃料など金銭面で折り合いがつかないと報じられていることだ。こうしたすれ違いは、建設予定地が決まった当初から見られていた。

 新タワーの建設予定地が墨田区に決まったのは、2006年3月31日。放送局側が開いた説明会で配られた資料には「最終候補地」と記される一方で、東武側の会見では「建設地」と断定的に書かれていた。

この微妙な温度差について、当時、東武側の会見に出席した山崎昇・墨田区長に訪ねたところ、このような答えが返ってきた。

「放送局側からは、最終決定したが東武・行政と3者で今後協議しなければならないことがある、と話があった。後ろ向きな協議はあり得ないので『最終候補地』は『建設地』であると思う」

建設予定地の表記が異なるほかに、建設費の負担についても見てみよう。新タワーの建設費用は500億円と発表されている。この500億円は2006年5月設立の新タワー社が負担するが、今のところ、同社への出資企業は親会社の東武のみ。東武は2006年5月、2016年満期でユーロ円建ての転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行し、最大で500億円を調達した。

一方で、「事業について発言権を確保する必要はあるかと思うので、株主になるのも方策」(山崎区長)と、当初、出資に前向きな姿勢を見せていた墨田・台東両区では、今のところ新タワー社への出資の話は進んでいないようだ。地元関係者によると、区議会でも出資に関する話は出ていないという。

前出の関係者は現状についてこう語る。「(タワーができる2011年は)4年も先ですからねぇ。タワー周辺の商業施設に出店するとか、出資するなどの判断は、今の段階では企業として難しいんじゃないですかね」。

 しかし東武は「国内有力企業に加え、放送局にも出資を求める」と前述の会見で説明していた。“国内有力”企業はさておき、建設予定地が決定して1年以上も交渉を行っているのに、放送局側が出資の姿勢を見せていない点は疑問が残る。

「大人の話として、(放送局側が)建ててくれと言っておいて、東京タワーが安いから新タワーはやめます、というのもないでしょう」。地元関係者はこう読むが、真相はまだわからない。最近の動きで公になっていることと言えば、新東京タワー社が、9月中旬に環境アセスメントの住民向け説明会を、墨田・江東・台東の3区で開いたことくらいである。

東武にとっては巨大プロジェクトであるため、進ちょく状況がわかりにくい点は致し方ない面もあるだろう。しかし、東武側がプロジェクト名「Rising East Project」(ライジング・イースト・プロジェクト)を発表したのは昨年の10月。

周辺地域の発展に寄与するタワーを目指すならば、もう少し具体像が見えてきても良さそうなものと感じるのは、記者だけだろうか。

写真1:地デジのフルパワー放送を記念してブルーにライトアップされた東京タワー=05年12月1日、東京・六本木で(撮影:吉川忠行)
写真2:2006年11月に東武鉄道が発表した新東京タワーのイメージイラスト(提供:東武鉄道)
写真3:新東京タワーの建設予定地=9月4日(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
東京タワー
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)



初出:2007年10月23日11時45分 吉川忠行/オーマイニュース

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