2008-09-23

新東京タワーはどうなった?

経済効果は年880億、本当に地元は潤うか?

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

2007年12月、首都圏の地上デジタル放送(地デジ)の電波塔となる新東京タワーを建設する東武鉄道(東京都墨田区、根津嘉澄社長)は、NHKや在京民放5社と利用予約の契約を結んだ。これに先駆けて07年9月、東京タワーを運営する日本電波塔(東京都港区、前田伸社長)は、放送局6社へ継続利用を持ちかけたが、東武と6社が契約を結んだことで11年7月の地デジ完全移行後に放送局が新東京タワーを使用することが事実上決まった。着工は今夏を予定している。

 高さ610メートルと、東京タワーの倍近い新タワーの建設は現実のものとなり、建設地となる東京・墨田区内では、07年10月第2週から施工者の大林組により試験杭(くい)を使った工法の確認や強度試験などが行われている。

08年に入り、墨田区は08年度予算案の報道関係者向け説明会を2月8日に行った。13日には、東武鉄道と同社が100%出資する事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長、以下・新タワー社)が、地元町会などに事業の概要を説明し、建設への理解を求めた。

着工に向けて準備が進む新東京タワー。一方で、商店街との共生や建設地周辺の道幅が狭いなど、課題も多い。今回は墨田区の予算案や東武側の説明を基に、新タワー建設の現状と課題をまとめた。

新タワー建設地に32階建てビルを併設

新タワーの建設地は、東武伊勢崎線の押上・業平橋(おしあげ・なりひらばし)両駅の周辺地区で、敷地面積は3万6800平方メートル。押上駅には東武伊勢崎線のほか、京成押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線の4路線が乗り入れており、墨田区にとって「交通の要衝」だ。

 東武の資料によると、新タワーを中心に、東街区に地上32階・地下2階、西街区には地上7階・地下2階の商業施設を建設。東西の商業施設は新タワーの足元を通る形でつながっており、4階が展望台への出発階、5階が到着階となる。新タワーの展望台は、計画当初と同様、第1展望台が高さ350メートル、第2展望台は450メートルで、第1展望台にはレストランやカフェを併設する予定だ。

商業施設の延べ床面積は23万平方メートルで、物販や飲食施設のほか、オフィスフロアを設ける。オフィスについては、一部ないし全部を一括借り上げするような企業を想定している。また、“和の宿”をコンセプトとした、宿泊施設のみのホテルも用意し、外国人観光客の滞在を狙う。

 このほか、多目的スペースや医療施設を設け、博物館や水族館、美術館の誘致を目指す。また、現在墨田区には大学などの高等教育機関が存在しないが、都市型キャンパスを開設したい大学や専門学校なども誘致したいという。

建設・運営は、新タワーは新タワー社が、商業施設は東武がそれぞれ行う。

経済効果は年間880億円

墨田区が2月8日に発表した2008年度予算案によると、電線の地中化をはじめとする新タワー周辺道路の景観整備や、同区ゆかりの画家・葛飾北斎にちなんだ「北斎館」の整備など、計6億784万円を新タワー関連で計上。08年度は調査・検討の費用で、09年度以降は着工にかかわる予算を計上する。

昨年の計画では、新タワー関連費用は06年度から17年度までの10年間で、78億円だったが、今回は約27億円増の105億7800万円となった。これに、総額23億円の北斎館の建設費用など、関連事業費27億5800万円を加えると、約55億円増の133億3600万円となる。

このうち、08年度から12年度までの5年間は、国土交通省の「まちづくり交付金」制度の利用を視野に入れた。同制度で採択されれば申請金額の最大 40%が交付される。該当する5年間の費用は109億円で、約40億円の交付が見込まれる。しかし、残りの60億円強は区がまかなわなければならず、区債の発行などを行う必要が出てくるだろう。また、現在の費用は初期投資のみの金額で、施設などの運用が始まれば、さらに費用が膨らむ。

一方、7日に行われた区議会の新タワー建設・観光対策特別委員会では、区側から経済波及効果の説明があった。新タワー完成までの建設投資で1496億7000万円、開業後は年間880億円の効果があると見込む。年間来場者数は、新タワーには552万人が、周辺施設には2085万人が訪れると試算。新タワーと街区の重複数を差し引くと、計2096万人が来場すると見ている。

区は事業会社に出資する?

今回の予算案では、新タワーを運営する事業会社「新東京タワー」への出資には触れられていなかった。現在、新タワー社の資本金4億円は、東武が全額出資。山崎昇・墨田区長は、2006年3月の新タワー建設予定地決定の会見では、出資に前向きな姿勢を見せていた。この点について山崎区長に尋ねると、

 「今後、新タワー社が資金(調達)のスキームを作られると思う。その中で、発言権を確保する意味では要請があれば検討する。ただ、今のところ東武から要請がない。資本参加をしていた方が、行政としても意見が通りやすいと思う」

とのことで、東武側の出方にもよるが、前向きな姿勢に変わりはなかった。

また、山崎区長はかねてより「下町文化の創世拠点」としての開発を東武側に呼びかけてきた。「単なる事業経営という視点だけの開発では困る。(都内の)六本木や汐留などと差別化しないと、お客さんは来ませんよと盛んに言っている」と注文を付けた。

区長の要望に強制力はないのでは? と尋ねると、「これまで一緒に協力してやってきたんだから、聞くところは聞いてもらわないと。行政の責任として、もの申すところは申して実現したい」と述べ、テナントなども下町文化が感じられるようにしてもらうよう、要請を続けるという。

山崎区長が東武側を牽制する一方、墨田区役所内では、新タワー推進事業など4つのプロジェクトについて、同庁初となる庁内公募制度を実施した。応募資格は、係長級と一般職員で職種不問で、応募は所属長を通さず直接希望の部署に行った。公募制を導入することで、新タワーで地元を活性化したいという、熱い思いを持った職員を中心に取り組みたいという。

今後、墨田区と東武の間に行き違いが生じないかが、新タワープロジェクト成功のカギを握っていると言えよう。

東武「スーパーなどの大型施設は入れない」

2月13日、墨田区内で行われた新タワー連絡会に、東武と新タワー社の担当者が参加した。同連絡会は、新タワーが建設される押上・業平橋駅周辺地区の29町会・自治会を対象に、同区が2007年11月に発足させた。

 東武側は、商業施設にスーパーなど大型店舗を入れる予定はないこと、宿泊施設は宿泊に特化したものになることなど、地元商店街と共存できるような商業施設にすることを強調した。施設に入るテナントの決定は、2年後位を目安に検討をしているという。

参加した町会関係者からは、商店街とのかかわり方や、新タワー完成後に狭い道を大型バスが通ることへの不安など、具体的な施策を尋ねる質問が多かった。

これに対して、東武側では事前に商業施設の店舗構成を説明することや、新タワーへの大型バスの出入りは予約制にするとして、理解を求めた。



新タワー周辺は道幅が狭い道路が多い。主要道路の拡幅を行うだけでは、大幅に増える交通量に対処しきれないと見られる。鉄道会社である東武側では、鉄道利用を呼びかけるが、これだけでは解決できないだろう。恒久的な渋滞に巻き込まれるのでは、住民の理解は得られない。

商店街との関係も、押上駅の地下から直接新タワーに出入りできるので、来場者が周辺地域を訪れるかは未知数だ。商店街側の自助努力はもちろんのこと、東武側からも回遊性を向上させるプランを打ち出せるかが、周辺地域の発展に寄与するタワーになるか否かの分かれ目になるだろう。

写真1:タワーのイメージ図(提供:東武鉄道)
写真2:新タワー建設地は多くの鉄道が乗り入れる交通の要衝(作成:小長谷祐介)
写真3:新タワーを挟み、商業施設が建設される(作成:小長谷祐介)
写真4:山崎区長は「六本木や汐留などと差別化しないと、お客さんは来ませんよ」と東武側に提案しているという=2月8日、墨田区役所で(撮影:吉川忠行)
写真5:地元町会からは東武側に具体的な説明を求める声が出た=2月13日、東京・押上で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)
墨田区
まちづくり交付金(国土交通省)



初出:2008年02月14日20時54分 吉川忠行/オーマイニュース

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