2007-02-16

新タワー最終候補地とは何か

誘致側は「建設地」と明言 温度差はどこから

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

 NHKと在京民放5社が2011年の完成を目指す、高さ610メートルの首都圏の地上デジタル放送用電波塔「新東京タワー」(第2東京タワー)の最終候補地が、3月31日に東京都内の「墨田・台東エリア」に決定した。この「最終候補地」という表現が、墨田・台東両区長と事業主体となる東武鉄道が開いた会見で配布された資料では「建設地」となっている。新タワーを建てる側と借りる側の温度差はどこから来るのか、建設費は誰が負担するのかなどをまとめた。

「墨田・台東エリア」とはどこか

 最終候補地は、当初墨田区と東武が中心となり誘致活動を行ってきた、東武伊勢崎線の押上・業平橋両駅の周辺地区で東武の貨物用操車場跡地。広さは約6万 4000平方メートルで、現在墨田区が区画整理事業を進めている。業平橋駅は1931年まで、浅草駅を名乗っていた。押上駅には現在東武伊勢崎線、京成押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線の4路線が乗り入れている。業平橋駅には東武本社が、押上駅には京成電鉄の本社が建つ。

一方、台東区内では民間団体が、隅田川に隣接する隅田公園への誘致活動を別途行ってきた。2005年3月に放送事業者が、豊島区など15の候補地の中から優先的に交渉する「第1候補地」に選定した際、隅田川を挟む両区が協力してまちづくりを行うことなどの条件を付した。第1候補地に決定後は、墨田・台東両区の行政や地元商店街などが協力して誘致活動を行った。

「最終候補地」と「建設地」の違い

 墨田・台東両区と東武は、最終候補地にほど近い東京都墨田区の東京マリオットホテル錦糸町東武(現・東武ホテルレバント東京)で31日午後から会見を開いた。会見には山崎昇墨田区長、吉住弘台東区長、鉢木勇東武鉄道専務らが出席した。

放送事業者は同日午前に両区と東武に対し、墨田・台東エリアを「最終候補地」に決めたと報告したが、会場で配布された墨田区と東武連名の発表資料では「建設地」とあった。この温度差について、ライブドア・ニュースが質問すると、壇上からは苦笑がもれた。山崎区長は「放送事業者からは、最終決定したが東武・行政と3者で今後協議しなければならないことがある、と話があった。後ろ向きな協議はあり得ないので『最終候補地』は『建設地』であると思う」と述べた。

会見に先立ち、放送事業者が行った記者懇談会で、フジテレビの飯島一暢(かずのぶ)総合調整局長は「暫定的な言い方なのは事業主体となる新会社の詳細や、タワー全体の総工費が確定していないから。一刻も早く正式な議論に入りたい」と語り、今後1年ほどかけて東武などと具体的な協議を行っていく姿勢を示した。

費用は誰が出す?

放送事業者側が新タワーの総工費が明確になっていないとする一方で、東武は新タワーの概算事業費を500億円と発表している。この金額は建設費などタワー実現に必要な総額としており、東武一社が負担するものではなく、事業主体として組成される新会社が負担する方向だ。

東武は、国内有力企業や自治体などと並行して放送事業者にも新会社への参加を呼びかける見込みだが、墨田・台東両区とも現時点では出資を決めていない。山崎墨田区長は「事業について発言権を確保する必要はあるかと思うので、株主になるのも方策」、吉住台東区長も「同じような状況」と今後出資も視野に入れた協議をするもようだ。

具体的な資金調達について、東武は「(新会社への)出資金、放送事業者からの補助金、敷金といった預託金、銀行借り入れ金で調達できると考えている」としている。

デジタル放送は映るか映らないのどちらか

放送事業者が高さ600メートルのタワーを建てるのは、アンテナを高くすることで電波が遠くまで届き、林立する高層ビルの陰で受信できない面積を減らすためだ。新タワーは4月1日に始まった移動体向け地上デジタル放送「ワンセグ」や、災害時の情報発信にも利用される。

しかし、デジタル放送は「SFN(単一周波数中継放送網)混信」と呼ばれる特有の受信障害が発生すると、放送がまったく見られなくなる。放送事業者の調査によると、このSFN混信は墨田・台東エリアに新タワーを建てた場合、北関東の一部など約2万2000世帯に発生する可能性があり、対策としてはアンテナの方向調整や取り換え、ケーブルテレビへの加入などが挙げられる。対策費用は放送事業者の試算で50-80億円になり、現地調査の精度を求めるほど費用は高騰するという。

今後対策費用を放送事業者と東武が協議するが、放送事業者側は東武にも一定の負担を求める見込みで、東武は「賃料交渉とは別問題なので、別途協議したい」としている。

◇ ◇ ◇

建設候補地の選定期限である3月末で「最終候補地」は決定したが、新タワーのデザインや諸費用の負担割合など、具体的な協議は始まったばかりだ。2011年、本当に新タワーは墨田・台東エリアに建つのか。【了】

写真1:新タワーの模型の前で握手を交わす、山崎墨田区長(中央)と吉住台東区長(右)、東武鉄道の鉢木専務=3月31日、東京・錦糸町のホテルで(撮影:吉川忠行)
写真2:新タワーの誘致決定を受け、地元商店街には決定を祝うポスターがはられた=2日、東京・押上の商店街で(撮影:吉川忠行)
写真3:すみだタワーのイメージイラスト(上段)と現在の建設予定地周辺(イラスト提供:東武鉄道、撮影:吉川忠行)



初出:2006年04月03日13時13分 吉川忠行/ライブドア・ニュース

0 件のコメント: