2008-09-19

モノ売り、やめました

早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

モノに込められたストーリーを買ってください──。そんな一風変わった販売コーナーが、10月1日から東京・西早稲田の早稲田大学生協「コーププラザ ライフセンター」(石幡敬子店長)に設けられている。棚にはコットンマフラーやフォトスタンド、本のしおりなど、墨田区内の中小企業が製造・販売を手がける7社10品の“モノ”が並ぶ。

 ストーリーを紹介するのは、同区の地域活性化に取り組む「地域を経営するゼミ」(地域経営ゼミ、友成真一・同大学大学院教授)の学生たち。彼らはなぜ、“モノ売り”をやめたのだろうか。

なぜ生協で売ることに?

早稲田大学と墨田区は、2002年12月から産業に加え、教育やまちづくりなど包括的な産学官連携に取り組んでいる。産業以外の分野を含めた産学官連携は、全国初の試みで、地域経営ゼミは今年で5年目に入った。

各学部から学生が集まる同ゼミの特徴は、必ずしも1年間で成果を求めず、ゼミを終えてからも同区の活性化に取り組んでいる学生が多いことだ。

モノ売りをやめた学生は、過去にゼミを受講し、現在はゼミの活動を先導する「コーディネーター」と呼ばれる役割を担う学生6人と、今年のゼミ生有志。コーディネーターの中には、4年間ゼミにかかわり続けている学生もいる。

生協に販売コーナーを設置するきっかけとなったのは、1月に、5円玉に矢形の木を通すパズル「矢れば出来る」が、受験生などに人気だったからという。墨田区内の中小企業「工房いるか」が製造し、生協に販売委託したものだ。

このとき石幡店長が、大学の産学官連携担当の職員から、ゼミと墨田区の中小企業とのかかわりについて聞いた。そして石幡店長が、1月末に墨田区の中小企業センターに、コーナー設置を提案。新年度に入って、墨田区の同センターの担当者が、ゼミの学生に話を伝え、出展企業選びが7月ごろから始まった。「早大生協が大学のゼミと共同で販売コーナーを設けるのは初の試み」と石幡店長はいう。

こうして学生たちは、ゼミで毎年訪問して顔なじみの「工房いるか」をはじめ、墨田区内の中小企業の魅力をどう伝えるかを考えることになった。その結果、作り手や売り手が製品に込めた「ストーリーを売る」プロジェクトが始まった。

モノのストーリーを知ってもらうには

取り扱っている7社10品目の製品は、学生が以前から訪れている店や企業などが中心。1人の学生が2品ほど担当し、ストーリーをまとめた。ゼミで作る人に会う中で、製品ができるまでの話を聞いて欲しくなったものや、いつも店先で見かけるものなどを中心にセレクトした。

 ニューヨーク近代美術館「MoMA」でも取り扱いのあるペーパーフォルダー(楓岡ばね工業)や、サッカー好きの人が作ったサッカーTシャツ(FLAGS)、ひとつひとつデザインが異なる本のしおり(丸ヨ片野製鞄所)など、どれもが作り手の思いが詰まっているものばかり。

中には肌着店「肌着の大和」のロングトランクスのように、学生が店を訪れるたびに「いつも店先に飾ってますね」と店主に言ってしまうほど、彼らにおなじみの製品もある。

各製品の仕入れ品数は、10から20づつ。本のしおりは初回の20枚が完売し、追加発注した。出展企業側は、売れることよりも製品を知ってもらいたいという気持ちが強いという。

今回のプロジェクトを早大生に知ってもらうために、学内でのリアルな口コミ以外にも、メーリングリストを作ったり、ミクシィの各学部のコミュニティーにプロジェクトの情報を流したり、ネット上でも活動を行っている。授業後も教室に残り、店頭の飾り付けや告知方法の改善策などを夜遅くまで相談している。

プロジェクト終了後の企画も検討している。今回製品を買ってくれたり、興味を示してくれた人たちとはミクシィを通じて関係を持続したり、1度製品を作った人に会ってもらう「すみだツアー」なども行いたいという。

「私は学生さんと何回も打ち合わせをして、彼らから製品の良さを聞いてストーリーを知ることができました。店頭の飾り付けやメールでの告知も大事ですが、やっぱりゼミの学生さんから話を聞くのが一番伝わってきますね。単におもしろいもの、良いものを売っているのではなく、(地域活性化の)研究としてやっていることや『すみだの良さ』などを語って欲しいです」と石幡店長。製品やその企業の良さをわかっている学生が、今以上にストーリーを語ることへ期待を示した。

「財布のひもは堅いです」

現在の悩みは、売り場で足を止める人は多いが、なかなか購入までに至らないこと。メンバーの一人、商学部4年の松林さやかさんは、「販売を始める前はもっと売れると思っていました。でも、財布のひもは堅いです」と感想を語る。ゼミ生からは「生協では日用品じゃないと買いにくいのかも」という意見も出ている。店頭で「すみだの良さ」を伝えるのは簡単なことではないが、学生たちの墨田区の企業への気持ちは熱い。今後は店頭でもストーリーが伝わるように工夫を重ねていきたいという。

販売コーナーは31日まで。あなたも学生たちの熱いパッションを感じてみませんか?

写真1:モノを売るのではなく、ストーリーを売る「モノ売り、やめました」のコーナー=12日、東京・西早稲田の早稲田大学で(撮影:吉川忠行)
写真2:5円玉に矢形の木を通すパズル「矢れば出来る」(撮影:吉川忠行)

■関連記事
「すみだ大好き人間」を区民が育てた
(早大、新タワーの地・墨田区で産学官連携の協定更新、07年12月26日)
新タワー、いくらだったら来てくれる?
(墨田区長と早大生が討論会、07年10月12日)

■関連リンク
モノ売り、やめました(mixiのコミュニティー)
早稲田大学生活協同組合
墨田区・早稲田大学産学官連携事業
すみだ中小企業センター



初出:2007年10月16日06時20分 吉川忠行/オーマイニュース

0 件のコメント: