2008-09-22

「すみだ大好き人間」を区民が育てた

早大、新タワーの地・墨田区で産学官連携の協定更新

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

新東京タワーの建設予定地を擁する東京都墨田区(山崎昇区長)と早稲田大学(白井克彦総長)は25日、産業振興やまちづくりなどの幅広い分野の産学官連携協定「包括的事業連携協定」を更新したと発表した。同協定は2002年12月に締結され、2期目の今回は07年12月24日から12年12月23日までの5年間となる。

文科系も含む包括的な連携

 一般的に大学と自治体の「産学官連携」は、産業や人材育成など個別の分野での連携が多い。地域の活性化に大学が全面的に連携する協定は、2002年の締結当初は全国的に例のないものであった。更新された同協定では、以下の5分野で協力するとしている。

1. 産業振興
2. 文化の育成・発展
3. まちづくり
4. 人材育成
5. 学術

また、学問の分野でも理科系の印象が強いが、同協定では文科系分野も含まれている。

1期目では、早大との特許の共同出願や中小企業の経営改善、ものづくりの強化、区外の人に墨田区の歴史や文化を紹介する「すみだ学」を早稲田大学のオープンカレッジで行うなど、理系・文系を問わずさまざま分野で成果が収められた。また、第1期で着手した観光拠点を巡る次世代モビリティ(移動体)の開発は、2期目も継続して行われる。

すみだにハマッた学生が区内に就職

 産学官連携の一環として始まった「地域経営ゼミ」(友成真一・同大大学院教授)では、墨田区を活性化するプランの企画や提案ではなく、実際に同区や区民を活性化することを求めている。また、必ずしも1年で成果を求めないのも特徴だ。

同ゼミでは5年間で125人の学生が区内をフィールドに学び、すみだ好きが高じた2人が区内のベンチャー企業と同区役所に就職した。

5期目の今年は、昨年までにゼミを受講した学生を中心に、区内の中小企業が制作した商品を「モノ」ではなく、作り手がモノに込めた「ストーリー」に光をあて、学内の生協で1カ月にわたり販売する「モノ売り、やめました」(関連記事)プロジェクトが行われた。

友成教授は5年間を振り返り、「多くの区民と接することで、すみだを好きになった125人の学生が全国・全世界に散らばった。彼らは自分のビジネスなどで、すみだをいろいろな世界とつなげていくでしょう」と、最大の成果は「すみだ大好き人間」を区民が育てたことだと語った。

ちなみに記者は同ゼミを昨年から取材してきたが、すみだの人と学生双方から「活性化」させられた。そうでなければ、新東京タワーの建設予定地問題が一段落した現在も、墨田区という一つの地域を取材し続けることはなかっただろう。

今度の5年間をどうする?

 連携2期目の期間中の2011年には、高さ610メートルの新東京タワーが完成予定の墨田区。同区には、東京23区で唯一大学や短大などの高等教育研究機関がない。早大との連携を深めることで、魅力ある地域作りを行い、従来同区の産業の中核であった製造業に加え、観光産業なども強化していく方針だ。一方、早稲田大学では来年4月を目処に同区との産学官連携専任の教員を準備する予定という。

25日に墨田区役所で行われた記者会見の席上、山崎区長は5年間を振り返り、「タネはまけた。次の5年で花を咲かせたい」と述べた。

早大の地元である高田馬場でも昔ほど住民と学生が親密ではないと指摘する白井総長は、学生が区内で学ぶ時間が短い中で、「2人の学生がここ(墨田区)を仕事場として選んだことは大きい。人作りというのはものすごく大きい成果だ」と地域活性化における人材育成の大切さを語った。

 次の5年間に学生へ何を求めるかを尋ねると、山崎区長は、「区内にいると墨田区の強みと弱みがわからない。全国から集まった学生に率直に言ってもらうことが新鮮。いろいろな提案をして欲しい」と語り、白井総長は、「地域の問題について(区民と学生で)お互いできることがわかってきた。学生の方が(区民より)若干時間もあり、若さ故の情熱もある。今までの5年間でベースとなる信頼関係ができてきた」と述べ、双方の信頼関係が築かれた上でこそできるプロジェクトの実現に期待感を示した。

墨田区と早稲田大学では、2008年1月19日に墨田区役所に隣接する「すみだリバーサイドホール」で、ロボット操作や燃料電池車の体験コーナーなどを設けた連携5周年の記念イベントを開く。午前10時から午後4時半までで、入場無料。

写真1:包括的事業連携協定を5年間更新した墨田区の山崎区長(左)と早稲田大学の白井総長=12月25日、東京・墨田区役所で(撮影:吉川忠行)
写真2:最大の成果は「すみだ大好き人間」を区民が育てたことと語る友成教授(撮影:吉川忠行)
写真3:「学生からいろいろな提案をして欲しい」と語る山崎区長(撮影:吉川忠行)
写真4:「2人の学生が墨田区を仕事場として選んだことは大きい」と話す白井総長(撮影:吉川忠行)

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(早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区、07年10月16日)
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■関連リンク
墨田区・早稲田大学産学官連携事業
墨田区
早稲田大学



初出:2007年12月26日05時00分 吉川忠行/オーマイニュース

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