2007-03-01

新東京タワーの取材

私が新東京タワーの取材を始めたのは、2005年1月のことでした。
当時は我々ニュースセンターが04年12月に発足してから1カ月。2月からの本格稼働を目前に、試験的に記事を出している時期でした。

最初の記事は池袋の誘致集会のレポートです。
豊島区のホームページか何かで、1月下旬に池袋で誘致集会があることを知り、大学で池袋東口の研究をしていた私は、新たな池袋研究のネタにもなると思い、集会に足を運んでみました。

新東京タワーの存在を最初に知ったのは、1990年代後半のことです。
当時は、秋葉原に建てるやら、浅草が立候補しているやら、東京タワーの隣に建てるやら、浮かんでは消える候補地の名を新聞で眺めていました。現在の高さ600メートルの地上波デジタル(地デジ)放送用新タワーのプロジェクトがスタートしたのは2003年で、その当時はあまり関心がなかったというのが正直な感想です。

このたび、ライブドア・ニュースの独自報道部門の廃止に伴い、私が取材・執筆した計49本の記事を自分のブログに掲載しました(“新東京タワー”のタグでまとめてます)。
これは仮にオリジナルデータが消失した場合でも、後々新東京タワーについて研究する方などのお役に立てればとの思いで、自分で管理しているサイトに再掲した次第です。

私自身、これからも機会があれば別の媒体で新東京タワーのことを書き続けられればと考えています。

新タワーは地域のDNAになるか

特集・地域活性化は誰のために 最終回

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

 下町情緒あふれる街並みが残る東京・墨田区。2011年完成予定の新東京タワーの建設地に決定したことで、同区は従来の製造業中心から観光都市への脱皮を図る。地元では新タワーの誘致成功を歓迎する声が聞かれる一方、「潤うのはタワーの建つ再開発地域の中だけ」との声も聞かれ、建設地周辺まで波及効果が及ぶのか、疑問視する見方も根強い。

同区は新タワー誘致前の03年から、早稲田大学と産業に加え、教育やまちづくりなど包括的な産学官連携に取り組む。産業以外の分野を含めた連携は、全国初の試みだ。この一環として、地域経営ゼミ(友成真一・同大理工学術院教授)では、同区を舞台に必ずしも一年間で成果を求めず、長期的な視野で地域活性化に取り組んでいる。4年目を終えた同ゼミの狙(ねら)いを、友成教授に尋ねた。

学生は教授のコマではない

「墨田区を活性化するのが最大の目的ならば、これほど非効率なことはないですよね(笑)」。学生に自主的な活動を求める同ゼミで、一年間で成果を求めない点を尋ねると、同教授はこう答えた。教授が施策を示し、学生が実行する──。これが従来大学が行う地域活性化の手法だった。しかし、短期で結果を出せたとしても、本質的な問題解決に至らないことが多い。「短期で“結果”を求めるなら学生をコマとして使うだけになる」。

同教授は、地域活性化を経営の視点でとらえる。「経営の本質は原因を作り続けること。原因に目を向けなければ、世の中が求める“結果”は生まれない」と、変化が生じる本質的な“原因”を同区で作っていきたいという。商店街の“復活”を、ビジネスとして成功させるならば、学生はコンサルタント会社に勝てないであろう。大学が地域と関(かか)わる意味を「物事の本質を追究するのが大学だから」と同教授は考える。

自分自身に活力や考え方の変化が生じないと地域を活性化できない、と同教授は見る。ゆえに「非効率」でありながらも、学生と活性化のタネ(原因)をまき続ける。

「年々本質に向かっている」

自主的なゼミの活動を先導するのが「コーディネーター」と呼ばれるかつて受講した学生たちだ。

コーディネーターたちは、ゼミ生たちを牽引(けんいん)しつつ、「キラキラ探偵団」(前回参照)など、自らのプロジェクトも手がけた。同教授は、年々プロジェクトが、人の心に変化を生じさせる「地域活性化の本質的なこと」に向かっているという。前年の経験を生かして活動するコーディネーターの存在が、その一因であるのは間違いない。

新タワーを地域のDNAに

新東京タワーの建つ墨田区では、周辺地域の整備計画が着々と進行している。しかし、観光の目玉となる大型施設の誘致に成功しつつも、徐々に客足が伸び悩んだ地域も多い。2001年に負債総額3261億円と第3セクターでは過去最大規模となり、会社更生法の申請に追い込まれた宮崎県の大型リゾート施設「宮崎シーガイア」など、地域活性化の夢が破れた例は枚挙にいとわない。

同区が同じ轍(てつ)を踏まない策を尋ねると、同教授は「タワーが建つ前から活用すること」を提案。「建設前から開業後まで、(タワーを建てる)東武鉄道や放送局以外に地域の人が関わり続けないと、新タワーという地域の “資源”を最大限に活用したことにならない」と指摘する。新タワーが地域のDNA(遺伝子)になりうるかが成功のカギだ。

地域活性化は、自治体でも事業を行う企業でもなく、街に住む人のために行うものである。大型施設に依存する従来の方法から、人を中心とした方法に転換することで、長期的に成果が見込める、住人のためになる地域活性化が行えるだろう。新東京タワーは、その好例になれるだろうか。

◆ともなり・しんいち: 1954年大分生まれ。京都大学・大学院工学研究科修了後、80年通商産業省(現・経済産業省)入省。資源エネルギー政策、技術政策、中小企業政策、通商政策を手がける。86年在イラク日本大使館、93年JETROニューヨークセンター技術調査員、96年通産省ロシア東欧室長、2001年国土交通省企画官を経て、02年より現職。「真実は現場に生息する」、「一点突破」、「家族第一」が信条。

【了】

写真:「短期で“結果”を求めるなら学生をコマとして使うだけになる」と語る友成教授(撮影:吉川忠行)

■特集・地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ後期特集─全4回)
第3回 商店街が子どもを育てる!(07年01月27日)
第2回 高校生とまち歩きで地元再発見(07年01月26日)
第1回 新タワーで街は幸せになる?(07年01月24日)

■連載・新タワー候補地を"経営"する(地域経営ゼミ前期特集─全4回)
第4回 新東京タワーを建てる意義は?(06年07月28日)
第3回 学生それぞれの「すみだ」(06年07月27日)
第2回 デザインは相手への思いやり(06年07月26日)
第1回 なぜ新東京タワーを誘致した?(06年07月25日)



初出:2007年01月28日11時50分 吉川忠行/ライブドア・ニュース