2008-09-26

幻となった舎人の新東京タワー計画

誘致合戦敗退から3年、今は一面に菜の花が

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

3月30日に開業する新交通「日暮里・舎人ライナー」。同線は東京・荒川区の日暮里駅から足立区の見沼代親水公園駅までの約10kmを20分で結ぶ。沿線にある舎人(とねり)公園は、2005年3月に新東京タワー建設地の座を争った候補地のひとつ。新タワー誘致に破れてから3年。同線の開業を目前に控えた舎人公園を訪ねた。

当初から厳しかった実現性

 舎人公園の敷地は69万5000平方メートル(計画決定面積)で、東京ドーム約15個分と広大な公園だ。テニスコートや陸上競技施設のほか、キャンプ場などもある。土地の大半は東京都のもので、足立区が所有するのはわずかに6万8000平方メートル。最寄り駅は日暮里・舎人ライナーの舎人公園駅で、同線開業までは路線バスのみだった。首都高速川口線の加賀インターチェンジからは1kmの距離に位置する。

タワーの建設用地は、このうちの2万平方メートルで、舎人公園駅の真横に計画されていた。タワーの高さは地上600メートルで、第1展望室を310メートル、第2展望室を420メートルの高さに設け、開業年度の年間想定入場者数は330万人の計画だった。概算の建設費は307億円で、誘致活動は足立区が行っていた。

 同区では、新タワーと舎人公園の来場者に加え、年間150万人以上の観光客が訪れるという西新井大師との連携を考えていた。また、地元で開業を長年待ち望んだ日暮里・舎人ライナーの利用者増にも寄与できる点も誘致理由に挙げていた。

3年前の誘致合戦で敗因のひとつは、土地取得の実現性だ。舎人公園の管理者は都。石原慎太郎都知事は当時も新タワーに否定的だった。都の関係者に尋ねても、「(企業でいうと)社長がダメだと言ってるのに、現場が許可することはないですよ」という声しか聞かれなかった。

こうして、事業主体が明確であることなどを理由に05年3月、新タワーの「交渉優先候補地」は、第一候補地の「墨田・台東エリア」と、第二候補地の「さいたま市」に絞られ、翌06年3月に「墨田・台東エリア」が最終候補地に決まった。舎人公園の新タワー計画は幻に終わった。

「ここは不便だからダメだよ」

 3年ぶりに舎人公園を訪れると、芝生だった新タワー建設候補地のあたりは、都が整備した菜の花が咲き誇っていた。公園に入ると、菜の花畑とは別に、パンジーや足立区内の野草を集めた花壇を、ボランティア「みどりと鳥の会」の人たちが手入れをしていた。

同会の中心となっている津村昭人さんによると、舎人公園での花壇作りの活動は7、8年前から行っているという。前身となる活動を含めれば10年近いそうだ。現在30人ほどの登録があり、この日も60代を中心に10人くらいの人たちが土を耕したり、雑草を取って花壇の手入れに精を出していた。

 公園の近所に住む津村さんに新タワー誘致計画のことを尋ねると、「あぁ、あったね。詳しくは知らないけど、ここは交通の便が悪いからダメだよ。バスだと渋滞がひどくて日暮里に出るまでの時間が読めない。これ(日暮里・舎人ライナー)ができてもどうだろうなぁ」と悲観的。記者も日暮里駅から舎人公園まではバスに乗って30分弱で着いたが、帰りは1時間近くかかった。タワー誘致に成功していても、車両が小さい日暮里・舎人ライナーと日常的に渋滞に巻き込まれている路線バスでは、輸送力に限界があるだろう。

もうひとりの男性は新タワー自体が不要で、日暮里・舎人ライナーの利用率にも懐疑的だ。

「(建設が決まった)墨田区でももめてるんでしょ? そもそも東京タワーを改良すれば大丈夫らしいじゃない(関連記事)。あんなのはいらないよ。これ(日暮里・舎人ライナー)だって(終点にほど近い)埼玉県まで行けばいいかもしれないけど、2つ先(見沼代親水公園駅)までじゃ、そんなに(通勤などで)使う人はいないんじゃないの?」

広大な公園と手入れの行き届いた花壇の草花を見ていると、誘致合戦に敗れたことは公園と地域の人々には良かったのかもしれない。

写真1:舎人公園の新タワーイメージ図(当時の資料から)
写真2:新タワーの建設用地は舎人公園駅に隣接した場所を想定していた(当時の資料から)
写真3:かつて新タワーを誘致した場所は菜の花が満開=3月27日、東京・舎人公園で(撮影:吉川忠行)
写真4:公園内にはボランティアの人たちが手入れをする花壇がある=3月27日(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
日暮里・舎人ライナー
舎人公園(財団法人東京都公園協会)



初出:2008年03月29日15時37分 吉川忠行/オーマイニュース

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