2008-09-30

新東京タワー記事の再掲完了

私が7月末まで所属していたオーマイニュースで取材・執筆した新東京タワー関連の記事計15本を自分のブログに掲載しました。これはライブドア・ニュース時代の49本と同じく、オリジナルデータが消えても新タワーについて研究する方などのお役に立てればとの思いで再掲しました(“新東京タワー”のタグでまとめてます)。

7月末まで所属といっても、最後の出社は6月の終わりだったので、7月14日の新タワー起工式は個人で取材しました。8月は北京オリンピックの取材をしつつ、期間中に上海へ転戦し、オープン前の上海環球金融中心(上海ヒルズ)や周辺地域も撮ってきました。これらはどこかで新タワーについて書く際に使えればと考えています。

新タワーはともかく、地域活性化などの街ネタはなかなか読んでもらえないジャンルですが、せっかく長いこと続けてきたので、できればライフワークとしてこれからも取材を続けていこうと思います。

2008年9月30日
吉川忠行

2008-09-29

新タワー名「東京スカイツリー」に決定

全国投票で3万2699票、空に向かう大きな木をイメージ

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

今年7月に着工予定の新東京タワーを建設する東武鉄道(東京都墨田区、根津嘉澄社長)と同社が100%出資する事業会社新東京タワー(東京都墨田区、宮杉欣也社長)は10日、新タワーの正式名称が「東京スカイツリー」に決定したと発表した。

「東京スカイツリー」は3月に作詞家の阿木燿子さんら有識者10人による「新タワー名称検討委員会」(座長・青山やすし元東京都副都知事)が選定・発表した「東京EDOタワー」「東京スカイツリー」「みらいタワー」「ゆめみやぐら」「ライジングイーストタワー」「ライジングタワー」の6案のうち、全国投票でもっとも投票数が多かった。投票は4月1日から5月30日まで行われ、総投票数11万419票のうち、東京スカイツリーは3万2699票を集め、第2位は「東京EDOタワー」の3万1185票だった。

 新タワー社の宮杉社長は、選考結果について、同日東京・銀座のコートヤード・マリオット銀座東武ホテルで行われた発表会で、「空に向かう大きな木をイメージし、“スカイ”は澄んだ空、“ツリー”は豊かな緑を表しています。新タワーは世界から人が集う場所になるでしょう。日本と世界の人々を結ぶ大樹となるよう、ご支援をお願いいたします」と語った。

2011年度から首都圏の電波塔となる東京スカイツリーの高さは、現在の東京タワーの約2倍となる610メートルで、地上350メートルと同450メートルの2カ所に展望施設が設けられる。建設地は東武伊勢崎線の押上・業平橋(おしあげ・なりひらばし)両駅の周辺地区(敷地面積3万6800平方メートル)で、東京スカイツリーのほかに地上32階地下2階の商業施設などを併設予定。11年12月竣工、12年春の開業を予定している。来年夏には200メートルの高さまで鉄骨が組み上がるという。

墨田区では、東京スカイツリー完成までの建設投資で1496億7000万円、開業後は年間880億円の経済波及効果があると見込む。年間来場者数は、東京スカイツリーには552万人が、周辺施設には2085万人が来場すると見ている。

今回の名称決定に伴い、新タワー社は社名を6月10日付けで「東武タワー スカイツリー株式会社」に変更すると発表した。

候補案別投票数
東京スカイツリー:3万2699票
東京EDOタワー:3万1185票
ライジングタワー:1万5539票
みらいタワー:1万3915票
ゆめみやぐら:9942票
ライジングイーストタワー:6426票

写真1:新タワーの名称は「東京スカイツリー」に決定=10日午後、東京・銀座で(撮影:吉川忠行)
写真2:東京スカイツリーのロゴを発表する宮杉社長(撮影:吉川忠行)

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(6月上旬決定、すみだタワーは残らず、08年03月19日)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー株式会社)



初出:2008年06月10日14時47分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-28

不景気でも祭りを大切にする“下町の心意気”

墨田区長と早大生が討論会

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

7月に高さ610メートルの新東京タワーの建設が始まる墨田区で8日夜、山崎昇・墨田区長と早稲田大学の学生が、同区や地域活性化について議論する討論会「墨田区役所を裸にする ~区長とのディスカッション~」が行われた。

 墨田区では早稲田大学と2002年12月に締結した産学官連携協定「包括的事業連携協定」に基づき、地元の中小企業も交えた地域活性化の産学官連携に、新タワー誘致前の03年から取り組んでいる。産業以外の分野を含めた連携は全国初の試みで、この一環として「地域を経営する」をテーマにした友成真一・同大学大学院環境・エネルギー研究科教授の「地域経営ゼミ」が、03年4月から同区内で行われており、今年で6期目に入った。

地域がもともと持っている良さや特色、人材などの資源を活用し、地域の価値の最大化に取り組むのが特徴の地域経営ゼミ。必ずしも1年間で成果を求めずに、長期的な視野で地域活性化に取り組むのが特徴で、さまざまな学部から学生が集まる学部横断型のゼミだ。

6回目となる今回の討論会には、早大に日本語の語学留学をしている留学生2人を含む32人の学生が参加した。留学生の参加は今回が初めて。

祭りの寄付は不景気でも集まる

「はじめて墨田区に来ると、墨田区の強みと弱みが見える。(1年間のゼミで)一番期待しているのは、どんなことをすれば若い人が足を運んでくれるかをぜひ提案してほしい」。討論会の冒頭、山崎区長はこう述べ、区内にいるとわかりにくい同区の“強みと弱み”について、外部からの新鮮な視点で指摘を求めた。

 ゼミ生からは、区と国の関係についてや墨田区の魅力など、行政や地域に関するものから、区長がどう家族と接してきたかまで、幅広い分野の質問が出た。留学生からも「女性が政治家になるのが難しいのはなぜだと思うか」「墨田区を若者にどうアピールしているか」という問いかけがあり、予定を10分オーバーする1時間の議論が行われた。

討論会の中で、学生から「区長になってしんどかったことは何か」と問われた山崎区長は、バブル崩壊後に税収が急激に落ち込んだ結果、区の財政が危機的状況になり、職員の給与の一部カットを実施したときのことを挙げた。

「いろいろな部署を回ったときに、苦しいときはみんなでがんばろうという職員の気持ちがありがたかった。(行財政改革により)今は貯金ができるようになった。職員の懐に二度と手を突っ込むことがないようにしたい」と、当時を振り返りつつ語った。

墨田区の良さについては、地域のコミュニティーが根付いている点や、お祭りのときには不景気でも寄付が集まる“下町の心意気”を学生たちにアピールしていた。

「区長をひとりの人間として見られるようになった」

討論会の感想を学生に尋ねると、人間科学部2年の石井沙織さんは、「区長をひとりの人間として見られるようになった。個人を見てくれないと思っていたが、自転車で区内を移動していることなどで親近感を持った。でも聞きたいことは30パーセントくらいしか聞けなかったのが残念。区長自身の幸せが何なのかなどを聞きたかった」と、区長という役職から想像するイメージとは違うものを感じたようだ。

一方、留学生からは、「時間もなかったが、墨田区は若者の居住人口を増やすために何をやっているのかや、区長のアイデアをもっと聞きたかった」という声も聞かれた。

今回の討論会では、墨田区に関することに加えて、区長が自分の子どもとどう接してきたかなど、個人的な話も学生が引き出していた。友成教授に昨年10月に行われた前回との違いを尋ねると、「前回は(はしかの流行などで日程が延期となり)後期の開催だったため、学生が墨田区や区長に関する知識を得てからの討論で、構えてしまっている部分があった。今回は何も知らない状態だったので、区長の本質に迫ることができたのではないか」と、区長がどのような考えで墨田区や自分の家庭に接しているかを、学生がある程度引き出せた要因を語った。

同ゼミでは来週から墨田区内で実地研究を重ね、来年1月に区内で行われる予定の住民や商店主向け報告会で研究成果を発表する。

写真1:山崎墨田区長と早大生の討論会=8日夜、東京・墨田区役所で(撮影:吉川忠行)
写真2:墨田区の良さについて「祭りのときには不景気でも寄付が集まる“下町の心意気”」と語る山崎区長(撮影:吉川忠行)

■関連記事
・地域経営ゼミ5期
「すみだ大好き人間」を区民が育てた
(早大、新タワーの地・墨田区で産学官連携の協定更新、07年12月26日)
モノ売り、やめました
(早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区、07年10月16日)
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新東京タワー以外でも活性化を
(早大生が墨田区で地域活性化案を披露、07年01月19日)
新タワーと江戸情緒の両立を
(墨田区長と早大生がガチンコ討論、06年05月12日)

■特集・地域活性化は誰のために(地域経営ゼミ後期4期特集─全4回)
第4回 新タワーは地域のDNAになるか(07年01月28日)
第3回 商店街が子どもを育てる!(07年01月27日)
第2回 高校生とまち歩きで地元再発見(07年01月26日)
第1回 新タワーで街は幸せになる?(07年01月24日)

■連載・新タワー候補地を"経営"する(地域経営ゼミ4期前期特集─全4回)
第4回 新東京タワーを建てる意義は?(06年07月28日)
第3回 学生それぞれの「すみだ」(06年07月27日)
第2回 デザインは相手への思いやり(06年07月26日)
第1回 なぜ新東京タワーを誘致した?(06年07月25日)

■関連リンク
早稲田大学「地域を経営するゼミ」 国際班(留学生中心の班のブログ)
墨田区・早稲田大学産学官連携事業
墨田区
早稲田大学



初出:2008年05月09日13時30分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-27

新東京タワー最終6案「どれもセンスない」

本当にこの中から選ぶの?

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

7月に着工する高さ610メートルの新東京タワー。この新タワーの名称が6月に正式決定する。東武鉄道(東京都墨田区、根津嘉澄社長)と同社が全額出資する事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長)は、正式名称の公募を4月1日からスタート。5月30日まで投票を受け付けており、「東京EDOタワー」「東京スカイツリー」など、6案のなかで最も得票数が多い名前に決める。

エムプロでは公募とは別に、3月から最終6案と昨秋の公募案上位10案を合わせた16案で、投票結果がリアルタイムに反映される人気投票を行っている。6月の名称発表を前に、どのような名前に人気が集まっているかの目安にしていただければと思い、始めた企画だ。今回は投票時に頂いた意見を「中間報告」としてご紹介したい。

最終案は「センスなさ過ぎ」

「東武鉄道の6案はどれもセンスなさ過ぎですね」「最終6案だと『これといったもの』もない上、消去法でやると全部消えてしまう」「風変わりな名前は無視される」──。これらはいずれも「新東京タワー」に投票した人たちの意見だ。現在エムプロの人気投票では、「新東京タワー」が242票とダントツの得票数だが、票を投じた人の気持ちは、最終6案から正式名が選ばれるなら「新東京タワー」のほうがまだマシ、という意思表示のようだ。

 中には「どれもジジ臭く田舎っぽい名前で陳腐。100年たっても新東京タワーの方がなじみやすい」という手厳しい意見も。

新タワー社の担当者は「既存の建物(東京タワー)に“新”を付けるだけというのは、新しい建物の名称としてどうなんでしょう」と言うが、中には「東京タワーに敬意を表して」と選んだ人もいた。

「東京スカイツリー」と「ゆめみやぐら」ならまだマシ?

投票参加者からはさんざんな言われようの最終6案だが、わずかな差で1位なのは「東京スカイツリー」だ。5月1日午前11時半の時点で33票、2位の「東京EDOタワー」の25票と8票差で、3位の「ゆめみやぐら」が23票で10票差となっている。

「東京スカイツリー」を選んだ人の意見はなかったので、ほかの2つのコメントを見てみると、

「英語にした時に"tower"よりも"yagura"の方が日本らしいでしょ?」(ゆめみやぐら)

「ライジングイーストタワーには、東北楽天ゴールデンイーグルスみたいな香りがします」(ゆめみやぐら)

「外国人にもわかりやすく、歴史も感じさせてくれるから」(東京EDOタワー)

「エド・はるみがブレークしていることと、和英のマッチした感じが良いと思いました」(東京EDOタワー)

と、「やぐら」やエド・はるみに着目する人も。また、「ゆめみやぐら」であれば、新タワーと周辺開発のプロジェクト名そのものズバリの「ライジングイーストタワー」よりも建て主が前面に出すぎないと感じた人もいるようだ。

上位10案では「東京スカイタワー」と「大江戸タワー」が“接戦”

昨年秋に行われた公募の上位10案も見てみよう。前述の「新東京タワー」を除くと、37票の「東京スカイタワー」と36票「大江戸タワー」が、1票差で続いている。なお、これら10案は東武が実施している公募では投票できない。

 「今更EDOはないだろ江戸は(笑) 大江戸線のときも微妙だったが。“みらい”とかつくと横浜みたいでイヤ」(東京スカイタワー)

と、「EDO」「江戸」「みらい」に抵抗感を示す人も。また、「東京スカイタワー」を選んだ人の中には、最終6案に納得がいかず「“ゆめみやぐら”とかになったらデモ起こすわ」とまでいう人も。

「良い愛称は自然に考えてくれる」

現状をまとめると、最終6案で一票を投じたいと思えるものがないため、「新東京タワー」に票が集中していることがわかった。また、国鉄民営化後にJRが著名人を集めて「国電」に代わる名称として決定した「E電」がまったく定着しなかったことから、

「なんだかんだ言ってシンプルな名称が一番。変にいじくりまわした名前なんか付けてもきっと浸透しない。E電の教訓に学ぶべき」(新東京タワー)

と、過去の失敗例を生かすべきとの意見も聞かれた。最後に以下のコメントをご紹介して中間報告を終えたい。

「下手に凝った名前を考えても無駄です。良い愛称は一般庶民が自然に考えてくれることでしょう」(新東京タワー)

6月上旬に決まる正式名称は、周辺地域の発展に寄与するタワーにふさわしいものになるのだろうか。

写真1:08年5月1日午前11時半現在の投票結果
写真2:新タワー建設地では試験杭による試験が行われている=4月1日、東京・墨田区で(撮影:吉川忠行)
写真3:新タワー建設地(写真中央の空き地)は住宅に囲まれた場所だ=4月1日、東京・墨田区で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー株式会社)



初出:2008年05月01日11時55分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-26

幻となった舎人の新東京タワー計画

誘致合戦敗退から3年、今は一面に菜の花が

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

3月30日に開業する新交通「日暮里・舎人ライナー」。同線は東京・荒川区の日暮里駅から足立区の見沼代親水公園駅までの約10kmを20分で結ぶ。沿線にある舎人(とねり)公園は、2005年3月に新東京タワー建設地の座を争った候補地のひとつ。新タワー誘致に破れてから3年。同線の開業を目前に控えた舎人公園を訪ねた。

当初から厳しかった実現性

 舎人公園の敷地は69万5000平方メートル(計画決定面積)で、東京ドーム約15個分と広大な公園だ。テニスコートや陸上競技施設のほか、キャンプ場などもある。土地の大半は東京都のもので、足立区が所有するのはわずかに6万8000平方メートル。最寄り駅は日暮里・舎人ライナーの舎人公園駅で、同線開業までは路線バスのみだった。首都高速川口線の加賀インターチェンジからは1kmの距離に位置する。

タワーの建設用地は、このうちの2万平方メートルで、舎人公園駅の真横に計画されていた。タワーの高さは地上600メートルで、第1展望室を310メートル、第2展望室を420メートルの高さに設け、開業年度の年間想定入場者数は330万人の計画だった。概算の建設費は307億円で、誘致活動は足立区が行っていた。

 同区では、新タワーと舎人公園の来場者に加え、年間150万人以上の観光客が訪れるという西新井大師との連携を考えていた。また、地元で開業を長年待ち望んだ日暮里・舎人ライナーの利用者増にも寄与できる点も誘致理由に挙げていた。

3年前の誘致合戦で敗因のひとつは、土地取得の実現性だ。舎人公園の管理者は都。石原慎太郎都知事は当時も新タワーに否定的だった。都の関係者に尋ねても、「(企業でいうと)社長がダメだと言ってるのに、現場が許可することはないですよ」という声しか聞かれなかった。

こうして、事業主体が明確であることなどを理由に05年3月、新タワーの「交渉優先候補地」は、第一候補地の「墨田・台東エリア」と、第二候補地の「さいたま市」に絞られ、翌06年3月に「墨田・台東エリア」が最終候補地に決まった。舎人公園の新タワー計画は幻に終わった。

「ここは不便だからダメだよ」

 3年ぶりに舎人公園を訪れると、芝生だった新タワー建設候補地のあたりは、都が整備した菜の花が咲き誇っていた。公園に入ると、菜の花畑とは別に、パンジーや足立区内の野草を集めた花壇を、ボランティア「みどりと鳥の会」の人たちが手入れをしていた。

同会の中心となっている津村昭人さんによると、舎人公園での花壇作りの活動は7、8年前から行っているという。前身となる活動を含めれば10年近いそうだ。現在30人ほどの登録があり、この日も60代を中心に10人くらいの人たちが土を耕したり、雑草を取って花壇の手入れに精を出していた。

 公園の近所に住む津村さんに新タワー誘致計画のことを尋ねると、「あぁ、あったね。詳しくは知らないけど、ここは交通の便が悪いからダメだよ。バスだと渋滞がひどくて日暮里に出るまでの時間が読めない。これ(日暮里・舎人ライナー)ができてもどうだろうなぁ」と悲観的。記者も日暮里駅から舎人公園まではバスに乗って30分弱で着いたが、帰りは1時間近くかかった。タワー誘致に成功していても、車両が小さい日暮里・舎人ライナーと日常的に渋滞に巻き込まれている路線バスでは、輸送力に限界があるだろう。

もうひとりの男性は新タワー自体が不要で、日暮里・舎人ライナーの利用率にも懐疑的だ。

「(建設が決まった)墨田区でももめてるんでしょ? そもそも東京タワーを改良すれば大丈夫らしいじゃない(関連記事)。あんなのはいらないよ。これ(日暮里・舎人ライナー)だって(終点にほど近い)埼玉県まで行けばいいかもしれないけど、2つ先(見沼代親水公園駅)までじゃ、そんなに(通勤などで)使う人はいないんじゃないの?」

広大な公園と手入れの行き届いた花壇の草花を見ていると、誘致合戦に敗れたことは公園と地域の人々には良かったのかもしれない。

写真1:舎人公園の新タワーイメージ図(当時の資料から)
写真2:新タワーの建設用地は舎人公園駅に隣接した場所を想定していた(当時の資料から)
写真3:かつて新タワーを誘致した場所は菜の花が満開=3月27日、東京・舎人公園で(撮影:吉川忠行)
写真4:公園内にはボランティアの人たちが手入れをする花壇がある=3月27日(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
日暮里・舎人ライナー
舎人公園(財団法人東京都公園協会)



初出:2008年03月29日15時37分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-25

なぜ“新東京タワー”じゃダメなのか?

最終案に残らなかった理由を探る

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

2011年度に開業する高さ610メートルの新東京タワー。正式名称は4月1日から5月30日まで行われる投票を経て6月上旬に決定し、今夏に着工する。

 しかし、3月19日に発表された最終6案について、ネット上や街中の反応は「結局、新東京タワーと呼ばれるんじゃない?」といまひとつ。ヤフーに配信した記者の記事のコメント欄でも、国鉄民営化後にJRが著名人を集めて「国電」に代わる名称として決定した「E電」と同様、一般に定着しないのではないかとの声が聞かれる。

エムプロでは、東武鉄道が実施する投票とは別に、最終6案と公募案上位10案を合わせた16案で、独自に人気投票を実施している。今回は、最終案に残らなかった案が選に漏れた理由などをまとめた。

“新”東京タワーにできない理由

現在16案でもっとも一般的な名称は、「新東京タワー」であろう。「新タワー」のみではどこに建設されるタワーであるかがわかりにくいため、報道機関ではこの名称を便宜的に使用してきた。しかし、東武側では一度もこの名称を使ったことはなく、「新タワー」を使用している。

では、なぜ事業会社で東武の100%子会社である「新東京タワー株式会社」は、「新タワー」ではないのか。同社に尋ねると、「会社が設立された(2006年5月)当時、もっともわかりやすい名称だったからです」とのことだ。最終案に漏れた理由については、「既存の建物(東京タワー)に“新”を付けるだけというのは、新しい建物の名称としてどうなんでしょう。そもそも建設する会社が違うわけですから、(東京・丸の内の)丸ビルさんと新丸ビルさんのようにはいかないと思います」と担当者は語る。

確かに丸ビルと新丸ビルは、ともに三菱地所の建物だ。一方、東京タワーを運営している日本電波塔は、新タワーには一切関与していない。こうしたことから、「新東京タワー」は選外になったという。

「すみだタワー」はいつ消えた?

 2007年秋に1万8606件の応募があった公募案のうち、上位10案に残ったものの中で「すみだタワー」は東武が新タワーの誘致活動中に仮称として用いていたもの。これが最終案に漏れたのは、放送局側が05年3月に新タワーを建設する「優先候補地」として選んだ地域が、墨田区単独ではなく「墨田・台東エリア」だったからだ。

同地域を選定した条件の一つが、当時誘致を競っていた浅草を擁する台東区など、墨田区に隣接する地域も一体となって新タワーに取り組むことであった。このため、06年11月に新タワーのデザインを発表した時から使用をやめたそうだ。

なお、公募案で1位となった「大江戸タワー」は商標が問題になったとされているが、「商標は2次的な理由」(新タワー社の担当者)という。

ライジングイーストって何?

最終6案も見てみよう。「東京EDOタワー」や「東京スカイツリー」のように、公募案を踏まえたとみられるものもあるが、「ライジングイーストタワー」と「ライジングタワー」は、公募案の上位にはなかったものだ。

この「ライジングイースト」は、東武が06年10月に発表した、新タワー事業のプロジェクト名「ライジングイーストプロジェクト」が由来だ。墨田区を含む東京東部と埼玉県を営業基盤とする東武が、「日出ずる東のプロジェクト」として同地域の発展を願って名付けた。

これら最終6案を選んだのは、作詞家の阿木燿子さんら有識者10人による「新タワー名称検討委員会」(座長・青山やすし元東京都副都知事)。人選について新タワー社に尋ねると、「言葉の専門家、地元代表、タワー関係者などの中から、性別や年齢のバランスを考えて」選考したという。

東武では、住民や商店街向け説明会の都度、周辺地域の発展に寄与するタワーを目指すと説明してきた。はたして、地元が親しめる名前が選ばれるのだろうか。

写真1:新タワーのイメージ図(提供:東武鉄道)
写真2:新タワーの建設最終候補地が墨田・台東エリアに決定した06年3月、握手を交わす山崎墨田区長(中央)と吉住台東区長ら=都内で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)



初出:2008年03月28日18時51分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-24

新東京タワー、正式名の候補6案発表

6月上旬決定、すみだタワーは残らず

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

2011年から首都圏の電波塔となる、高さ610メートルの新東京タワーを建設する東武鉄道(東京都墨田区、根津嘉澄社長)と同社が全額出資する事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長)は19日、新タワーの正式名称の候補6案を発表した。4月1日から5月30日まで、ネットやはがきで投票を受け付け、6月上旬に決定する。

 発表された新タワーの名称案は、五十音順に「東京EDOタワー」「東京スカイツリー」「みらいタワー」「ゆめみやぐら」「ライジングイーストタワー」「ライジングタワー」の6案。事業会社の社名となっている「新東京タワー」や、従来仮称として用いてきた「すみだタワー」は残らなかった。

この6案は、作詞家の阿木燿子さんら有識者10人による「新タワー名称検討委員会」(座長・青山やすし元東京都副都知事)が、昨年秋に1万8606件の応募があった名称案の中から選定した。このときの上位10案は、以下の通り。

 1. 大江戸タワー(492件)
2. 新東京タワー(345件)
3. さくらタワー(207件)
4. 日本タワー(206件)
5. 東京スカイタワー(166件)
6. 江戸タワー(157件)
7. ドリームタワー(134件)
8. 東京ドリームタワー(112件)
9. スカイタワー(106件)
10. すみだタワー(102件)

4月1日から行われる投票では、新タワー開業時に一番最初にエレベーターに乗れる権利と副賞50万円が1人に当たる「名づけ親賞」や、地デジ対応テレビが12人に当たる「地デジ賞」など、4つのコースが設けられ、投票時に1コースを選択する。6月上旬の決定時には、投票数がもっとも多かった名称にするとしている。

新タワーは、東武伊勢崎線の押上・業平橋(おしあげ・なりひらばし)両駅の周辺地区に建設される。敷地面積は3万6800平方メートルで、新タワーのほかに地上32階地下2階の商業施設などを併設予定。新タワーには、地上350メートル(第1展望台)と同450メートル(第2展望台)の2カ所に展望施設を設置し、第2展望台には空中回廊が設けられる。

建設地となる墨田区では、新タワー完成までの建設投資で1496億7000万円、開業後は年間880億円の経済波及効果があると見込む。年間来場者数は、新タワーには552万人が、周辺施設には2085万人が来場すると見ている。

写真1:新タワーのイメージ図(提供:東武鉄道)
写真2:昨年秋には地元有志の手により新タワーを光で表現するイベントも行われた=07年10月、東京・浅草で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)
墨田区



初出:2008年03月19日23時11分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-23

新東京タワーはどうなった?

経済効果は年880億、本当に地元は潤うか?

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

2007年12月、首都圏の地上デジタル放送(地デジ)の電波塔となる新東京タワーを建設する東武鉄道(東京都墨田区、根津嘉澄社長)は、NHKや在京民放5社と利用予約の契約を結んだ。これに先駆けて07年9月、東京タワーを運営する日本電波塔(東京都港区、前田伸社長)は、放送局6社へ継続利用を持ちかけたが、東武と6社が契約を結んだことで11年7月の地デジ完全移行後に放送局が新東京タワーを使用することが事実上決まった。着工は今夏を予定している。

 高さ610メートルと、東京タワーの倍近い新タワーの建設は現実のものとなり、建設地となる東京・墨田区内では、07年10月第2週から施工者の大林組により試験杭(くい)を使った工法の確認や強度試験などが行われている。

08年に入り、墨田区は08年度予算案の報道関係者向け説明会を2月8日に行った。13日には、東武鉄道と同社が100%出資する事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長、以下・新タワー社)が、地元町会などに事業の概要を説明し、建設への理解を求めた。

着工に向けて準備が進む新東京タワー。一方で、商店街との共生や建設地周辺の道幅が狭いなど、課題も多い。今回は墨田区の予算案や東武側の説明を基に、新タワー建設の現状と課題をまとめた。

新タワー建設地に32階建てビルを併設

新タワーの建設地は、東武伊勢崎線の押上・業平橋(おしあげ・なりひらばし)両駅の周辺地区で、敷地面積は3万6800平方メートル。押上駅には東武伊勢崎線のほか、京成押上線、都営地下鉄浅草線、東京メトロ半蔵門線の4路線が乗り入れており、墨田区にとって「交通の要衝」だ。

 東武の資料によると、新タワーを中心に、東街区に地上32階・地下2階、西街区には地上7階・地下2階の商業施設を建設。東西の商業施設は新タワーの足元を通る形でつながっており、4階が展望台への出発階、5階が到着階となる。新タワーの展望台は、計画当初と同様、第1展望台が高さ350メートル、第2展望台は450メートルで、第1展望台にはレストランやカフェを併設する予定だ。

商業施設の延べ床面積は23万平方メートルで、物販や飲食施設のほか、オフィスフロアを設ける。オフィスについては、一部ないし全部を一括借り上げするような企業を想定している。また、“和の宿”をコンセプトとした、宿泊施設のみのホテルも用意し、外国人観光客の滞在を狙う。

 このほか、多目的スペースや医療施設を設け、博物館や水族館、美術館の誘致を目指す。また、現在墨田区には大学などの高等教育機関が存在しないが、都市型キャンパスを開設したい大学や専門学校なども誘致したいという。

建設・運営は、新タワーは新タワー社が、商業施設は東武がそれぞれ行う。

経済効果は年間880億円

墨田区が2月8日に発表した2008年度予算案によると、電線の地中化をはじめとする新タワー周辺道路の景観整備や、同区ゆかりの画家・葛飾北斎にちなんだ「北斎館」の整備など、計6億784万円を新タワー関連で計上。08年度は調査・検討の費用で、09年度以降は着工にかかわる予算を計上する。

昨年の計画では、新タワー関連費用は06年度から17年度までの10年間で、78億円だったが、今回は約27億円増の105億7800万円となった。これに、総額23億円の北斎館の建設費用など、関連事業費27億5800万円を加えると、約55億円増の133億3600万円となる。

このうち、08年度から12年度までの5年間は、国土交通省の「まちづくり交付金」制度の利用を視野に入れた。同制度で採択されれば申請金額の最大 40%が交付される。該当する5年間の費用は109億円で、約40億円の交付が見込まれる。しかし、残りの60億円強は区がまかなわなければならず、区債の発行などを行う必要が出てくるだろう。また、現在の費用は初期投資のみの金額で、施設などの運用が始まれば、さらに費用が膨らむ。

一方、7日に行われた区議会の新タワー建設・観光対策特別委員会では、区側から経済波及効果の説明があった。新タワー完成までの建設投資で1496億7000万円、開業後は年間880億円の効果があると見込む。年間来場者数は、新タワーには552万人が、周辺施設には2085万人が訪れると試算。新タワーと街区の重複数を差し引くと、計2096万人が来場すると見ている。

区は事業会社に出資する?

今回の予算案では、新タワーを運営する事業会社「新東京タワー」への出資には触れられていなかった。現在、新タワー社の資本金4億円は、東武が全額出資。山崎昇・墨田区長は、2006年3月の新タワー建設予定地決定の会見では、出資に前向きな姿勢を見せていた。この点について山崎区長に尋ねると、

 「今後、新タワー社が資金(調達)のスキームを作られると思う。その中で、発言権を確保する意味では要請があれば検討する。ただ、今のところ東武から要請がない。資本参加をしていた方が、行政としても意見が通りやすいと思う」

とのことで、東武側の出方にもよるが、前向きな姿勢に変わりはなかった。

また、山崎区長はかねてより「下町文化の創世拠点」としての開発を東武側に呼びかけてきた。「単なる事業経営という視点だけの開発では困る。(都内の)六本木や汐留などと差別化しないと、お客さんは来ませんよと盛んに言っている」と注文を付けた。

区長の要望に強制力はないのでは? と尋ねると、「これまで一緒に協力してやってきたんだから、聞くところは聞いてもらわないと。行政の責任として、もの申すところは申して実現したい」と述べ、テナントなども下町文化が感じられるようにしてもらうよう、要請を続けるという。

山崎区長が東武側を牽制する一方、墨田区役所内では、新タワー推進事業など4つのプロジェクトについて、同庁初となる庁内公募制度を実施した。応募資格は、係長級と一般職員で職種不問で、応募は所属長を通さず直接希望の部署に行った。公募制を導入することで、新タワーで地元を活性化したいという、熱い思いを持った職員を中心に取り組みたいという。

今後、墨田区と東武の間に行き違いが生じないかが、新タワープロジェクト成功のカギを握っていると言えよう。

東武「スーパーなどの大型施設は入れない」

2月13日、墨田区内で行われた新タワー連絡会に、東武と新タワー社の担当者が参加した。同連絡会は、新タワーが建設される押上・業平橋駅周辺地区の29町会・自治会を対象に、同区が2007年11月に発足させた。

 東武側は、商業施設にスーパーなど大型店舗を入れる予定はないこと、宿泊施設は宿泊に特化したものになることなど、地元商店街と共存できるような商業施設にすることを強調した。施設に入るテナントの決定は、2年後位を目安に検討をしているという。

参加した町会関係者からは、商店街とのかかわり方や、新タワー完成後に狭い道を大型バスが通ることへの不安など、具体的な施策を尋ねる質問が多かった。

これに対して、東武側では事前に商業施設の店舗構成を説明することや、新タワーへの大型バスの出入りは予約制にするとして、理解を求めた。



新タワー周辺は道幅が狭い道路が多い。主要道路の拡幅を行うだけでは、大幅に増える交通量に対処しきれないと見られる。鉄道会社である東武側では、鉄道利用を呼びかけるが、これだけでは解決できないだろう。恒久的な渋滞に巻き込まれるのでは、住民の理解は得られない。

商店街との関係も、押上駅の地下から直接新タワーに出入りできるので、来場者が周辺地域を訪れるかは未知数だ。商店街側の自助努力はもちろんのこと、東武側からも回遊性を向上させるプランを打ち出せるかが、周辺地域の発展に寄与するタワーになるか否かの分かれ目になるだろう。

写真1:タワーのイメージ図(提供:東武鉄道)
写真2:新タワー建設地は多くの鉄道が乗り入れる交通の要衝(作成:小長谷祐介)
写真3:新タワーを挟み、商業施設が建設される(作成:小長谷祐介)
写真4:山崎区長は「六本木や汐留などと差別化しないと、お客さんは来ませんよ」と東武側に提案しているという=2月8日、墨田区役所で(撮影:吉川忠行)
写真5:地元町会からは東武側に具体的な説明を求める声が出た=2月13日、東京・押上で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)
墨田区
まちづくり交付金(国土交通省)



初出:2008年02月14日20時54分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-22

「すみだ大好き人間」を区民が育てた

早大、新タワーの地・墨田区で産学官連携の協定更新

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

新東京タワーの建設予定地を擁する東京都墨田区(山崎昇区長)と早稲田大学(白井克彦総長)は25日、産業振興やまちづくりなどの幅広い分野の産学官連携協定「包括的事業連携協定」を更新したと発表した。同協定は2002年12月に締結され、2期目の今回は07年12月24日から12年12月23日までの5年間となる。

文科系も含む包括的な連携

 一般的に大学と自治体の「産学官連携」は、産業や人材育成など個別の分野での連携が多い。地域の活性化に大学が全面的に連携する協定は、2002年の締結当初は全国的に例のないものであった。更新された同協定では、以下の5分野で協力するとしている。

1. 産業振興
2. 文化の育成・発展
3. まちづくり
4. 人材育成
5. 学術

また、学問の分野でも理科系の印象が強いが、同協定では文科系分野も含まれている。

1期目では、早大との特許の共同出願や中小企業の経営改善、ものづくりの強化、区外の人に墨田区の歴史や文化を紹介する「すみだ学」を早稲田大学のオープンカレッジで行うなど、理系・文系を問わずさまざま分野で成果が収められた。また、第1期で着手した観光拠点を巡る次世代モビリティ(移動体)の開発は、2期目も継続して行われる。

すみだにハマッた学生が区内に就職

 産学官連携の一環として始まった「地域経営ゼミ」(友成真一・同大大学院教授)では、墨田区を活性化するプランの企画や提案ではなく、実際に同区や区民を活性化することを求めている。また、必ずしも1年で成果を求めないのも特徴だ。

同ゼミでは5年間で125人の学生が区内をフィールドに学び、すみだ好きが高じた2人が区内のベンチャー企業と同区役所に就職した。

5期目の今年は、昨年までにゼミを受講した学生を中心に、区内の中小企業が制作した商品を「モノ」ではなく、作り手がモノに込めた「ストーリー」に光をあて、学内の生協で1カ月にわたり販売する「モノ売り、やめました」(関連記事)プロジェクトが行われた。

友成教授は5年間を振り返り、「多くの区民と接することで、すみだを好きになった125人の学生が全国・全世界に散らばった。彼らは自分のビジネスなどで、すみだをいろいろな世界とつなげていくでしょう」と、最大の成果は「すみだ大好き人間」を区民が育てたことだと語った。

ちなみに記者は同ゼミを昨年から取材してきたが、すみだの人と学生双方から「活性化」させられた。そうでなければ、新東京タワーの建設予定地問題が一段落した現在も、墨田区という一つの地域を取材し続けることはなかっただろう。

今度の5年間をどうする?

 連携2期目の期間中の2011年には、高さ610メートルの新東京タワーが完成予定の墨田区。同区には、東京23区で唯一大学や短大などの高等教育研究機関がない。早大との連携を深めることで、魅力ある地域作りを行い、従来同区の産業の中核であった製造業に加え、観光産業なども強化していく方針だ。一方、早稲田大学では来年4月を目処に同区との産学官連携専任の教員を準備する予定という。

25日に墨田区役所で行われた記者会見の席上、山崎区長は5年間を振り返り、「タネはまけた。次の5年で花を咲かせたい」と述べた。

早大の地元である高田馬場でも昔ほど住民と学生が親密ではないと指摘する白井総長は、学生が区内で学ぶ時間が短い中で、「2人の学生がここ(墨田区)を仕事場として選んだことは大きい。人作りというのはものすごく大きい成果だ」と地域活性化における人材育成の大切さを語った。

 次の5年間に学生へ何を求めるかを尋ねると、山崎区長は、「区内にいると墨田区の強みと弱みがわからない。全国から集まった学生に率直に言ってもらうことが新鮮。いろいろな提案をして欲しい」と語り、白井総長は、「地域の問題について(区民と学生で)お互いできることがわかってきた。学生の方が(区民より)若干時間もあり、若さ故の情熱もある。今までの5年間でベースとなる信頼関係ができてきた」と述べ、双方の信頼関係が築かれた上でこそできるプロジェクトの実現に期待感を示した。

墨田区と早稲田大学では、2008年1月19日に墨田区役所に隣接する「すみだリバーサイドホール」で、ロボット操作や燃料電池車の体験コーナーなどを設けた連携5周年の記念イベントを開く。午前10時から午後4時半までで、入場無料。

写真1:包括的事業連携協定を5年間更新した墨田区の山崎区長(左)と早稲田大学の白井総長=12月25日、東京・墨田区役所で(撮影:吉川忠行)
写真2:最大の成果は「すみだ大好き人間」を区民が育てたことと語る友成教授(撮影:吉川忠行)
写真3:「学生からいろいろな提案をして欲しい」と語る山崎区長(撮影:吉川忠行)
写真4:「2人の学生が墨田区を仕事場として選んだことは大きい」と話す白井総長(撮影:吉川忠行)

■関連記事
モノ売り、やめました
(早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区、07年10月16日)
新タワー、いくらだったら来てくれる?
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■関連リンク
墨田区・早稲田大学産学官連携事業
墨田区
早稲田大学



初出:2007年12月26日05時00分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-21

新東京タワー、大学生ならこう生かす

建設予定地の墨田区でプレゼン大会

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

首都圏の地上デジタル放送の電波塔となる新東京タワー(事業主体:東武鉄道、高さ610メートル)の建設が予定されている東京・墨田区で、「大学・地域の協働による学生まちづくりプレゼンテーション大会」(東京商工会議所など主催)の表彰式が行われた。会場では、参加した7大学13チームのうち、墨田区長賞などを受賞した4大学5チームの学生が発表を行った。

学生プレゼン大会は、2006年に新宿区の四谷を対象地域に1回目が開催された。地域活性化に取り組む大学などの教育機関と連携した、まちづくり支援策の提案を行っている。2回目の今回は、2011年に新タワーの完成が予定されている墨田区が対象地域となった。

審査は、宮下正房・東京経済大学名誉教授を委員長とする9人の委員が、論理の整合性や独自性、計画の実行性などを基準に行った。宮下委員長は「当初は3賞を予定していたが、もったいない提案があり5賞にした」と参加チームの提案を賞賛した。

「新東京タワーは自分たち商店街と関係ない」が8割

 「墨田区長賞」を受賞した東京富士大学(高石光一ゼミ・齋田チーム11人)は、「新東京タワーと地域の融和を目指して~ステップアウト(一歩踏み出し)&スプレッド(拡散)戦略」を発表。商店街が抱える問題を現地で調査した結果、後継者不足や空き店舗の増加、来店者の減少をどう食い止めるかなど、既存の問題点があらためて浮かび上がった。

また、新タワーが建設されることについて尋ねると、「自分たちの商店街と直接の関係がない」という回答が8割近くに達したという。

こうした回答をふまえ、新タワーから200メートル以内に和菓子や洋菓子の名店をそろえた「甘味の城」などの拠点を設置し、周辺地域や既存の観光名所、区内の名店に観光客を誘導するプランを提案した。

この工場は何を作る工場?

「東京商工会議所墨田支部会長賞」を受賞した工学院大学(初田亨ゼミ・川島チーム7人)の発表内容は、「ものづくり都市 すみだ」。ものづくりの街である墨田区には、優れた技術を持つ小さな工場や伝統工芸の工房などが多い。しかし、道路に面した工場のシャッターが閉まっていることが多いため、どのような製品を作っているかがわかりにくい点に着目した。

工場や工房に共通のシンボルマークを作った上で、印刷業や金属製品業など、業種ごとのマークを作ることで、道路からどのようなの工場なのかが看板を見ればわかる提案を行った。

PASMOとの連携視野に「SUMIMO」

 一方、「日本都市計画家協会賞」を受賞した明治大学(山本俊哉ゼミ・大串チーム3人)は、緑化をテーマにした「新タワーを契機にしたこれからのまちづくりについて」を発表した。

路地の多い墨田区では、各家庭の路地園芸が多い反面、樹木や草で覆われた土地の割合を示す「緑被率」が2000年度で9.4%と、東京23区トップの練馬区の22.2%と比較して値が低いことから、区内の緑化推進で墨田区の魅力を底上げする「くるりんグリーンすみだ構想」を披露した。

同構想では、区内の商店街で現在利用されている「すみだスタンプ」をベースに、ICカードを導入する「SUMIMO(スミモ)」が特徴。スタンプに置き換わるポイントカード機能のほか、名称のヒントにもなっている首都圏の鉄道やバスで利用できる「PASMO(パスモ)」と連携して公共交通機関での利用も視野に入れている。

名称をJR東日本が発行する「Suica(スイカ)」ではなく、パスモにひっかけた理由を学生に尋ねると「区内は私鉄や地下鉄、バスが多く走っていたから地域性を考えて」とのことだった。

スミモの導入については、年度ごとにサービス内容や地域を広げる段階的な導入を提案している。また、公共交通機関での利用をモニターする際は、地元の610人を募集するなど、新タワーの「高さ610メートル」にかけた部分もあった。

全5チームが発表を終えた後、墨田区の山崎昇区長が講評を述べた。「24時間365日区内にいると、自分の街ことがわからなくなる。(区外の学生の提案は)目から鱗(うろこ)がおちるものばかりだった」と、学生たちのプレゼンテーションから、ものづくりの街のアピールや電子マネーの活用など、区の活性化のヒントを得たようだった。

写真1:墨田区長賞を受賞した東京富士大学の齋田チーム=22日、東京・錦糸町で(撮影:吉川忠行)
写真2:日本都市計画家協会賞を受賞した明治大学の大串チームはICカード「SUMIMO(スミモ)」を提案(撮影:吉川忠行)

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墨田区
東京商工会議所



初出:2007年11月23日11時00分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-20

どうなってるの?東京タワーと新東京タワーの関係って

放送局側は「6社歩調合わせて検討」

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

東京タワーを運営する日本電波塔(東京都港区、前田伸社長)は、NHKと在京民放5社に対し、地上デジタル放送(地デジ)への完全移行後も東京タワーの利用を続けて欲しいと、9月21日、協議を申し入れた。在京6社は、墨田区に建設予定の高さ610メートルの新東京タワーへ、くら替えを予定している。

これに対して、新しい東京タワーを建設する予定の東武鉄道の事業会社「新東京タワー」(東京都墨田区、宮杉欣也社長)は9月28日、新東京タワーの施工者を大林組に決定したと発表した。

建設予定地では、10月6日に光でタワーを表現するイベントが地元有志によって催された。10月第2週からは、大林組により工法を確かめるために試験杭(くい)を打つ作業が建設予定地で始まっている。2008年の新タワー着工に向けた準備が進むなか、いったい東京タワーと新東京タワーの現状はどうなっているのだろうか?

東京タワーは333メートルから360メートルへの改修計画

今回、日本電波塔が発表した計画は、東京タワーの全高を現在の333メートルから360メートル程度にし、地デジ用アンテナの取り付け位置を80~100 メートル高い位置へ移設する、というもの。また、敷地内に送信所を新築し、タワーの改良費40億円と送信所の新築費35億円の計75億円を自社負担する。賃料についても、現在の価格より抑えるという。

 これはテレビ局にとってはオイシイ話だ。なぜなら、現在、最大の稼ぎである広告売上が、消費者金融の出稿削減やインターネットなど他媒体との競争激化で、減少傾向にある。そのなかで、地デジ用の送信設備費用を丸抱えしてもらえることになるからだ。反面、今まで進めてきた新タワー向けの設備整備を見直す必要がでてくる。

計画そのものは、04年に在京6社が新タワー構想を発表した直後に、日本電波塔が提案していたもの。それを9月に公表した理由について、同社の高村啓之・総合企画課長補佐は、「東京タワーの強度面の安全性、地デジの受信エリアなど、調査結果がまとまったからです」と話す。

高村課長補佐によると、総務省が求める2011年初頭から、地デジに完全移行する同年7月までに、アナログ放送と同等の受信エリアをカバーしなければならないという条件は、東京タワーで満たせるという。送信アンテナの位置が変わる新タワーと異なり、家庭などに設置されている受信アンテナの位置は現在のままで良いため、電波障害対策費がほとんどかからない点もメリットだ。また、1958年の竣工から来年で50年を迎えるが、強度の調査をした結果問題がないという。

記者が以前入手した資料では、千葉県君津市にバックアップ用の小型タワーを建てる計画があった。川田正宏・総合企画部長によると、「現在では各放送局さんが自前でバックアップ施設を持たれているので、不要になりました」とのことで、東京タワーの改修と送信所の新設のみで、新東京タワーに対抗できるようだ。

放送局の反応は?

東京タワーの破格ともいえる改修計画の発表を受け、放送局側はどう考えているのだろうか。

10月4日に行われた、橋本元一・NHK会長の定例会見要旨によると、「できるだけ視聴者に迷惑をかけないように、NHKと民放各社が歩調を合わせ、統一した考え方で進めていくことが基本」と、記者からの質問に応じている。

一方、民放の君和田正夫・テレビ朝日社長や豊田皓・フジテレビ社長も定例会見でこの質問に答えている。君和田社長は、「1社としてどちらがいいとは今申し上げにくい状態。日本電波塔からの協議申し入れについても、6社として対応していきたい」と回答。NHK、民放ともに在京6社で協調して協議を行っていく姿勢を示した。

新東京タワーは金銭面で折り合いつかず?

「報道ではいろいろ言われていますが、大枠では放送局側と調整はとれていますよ」。ある関係者はこう語った。「いろいろ言われている」というのは、新タワーの事業主体「新東京タワー」と放送局との間で、賃料など金銭面で折り合いがつかないと報じられていることだ。こうしたすれ違いは、建設予定地が決まった当初から見られていた。

 新タワーの建設予定地が墨田区に決まったのは、2006年3月31日。放送局側が開いた説明会で配られた資料には「最終候補地」と記される一方で、東武側の会見では「建設地」と断定的に書かれていた。

この微妙な温度差について、当時、東武側の会見に出席した山崎昇・墨田区長に訪ねたところ、このような答えが返ってきた。

「放送局側からは、最終決定したが東武・行政と3者で今後協議しなければならないことがある、と話があった。後ろ向きな協議はあり得ないので『最終候補地』は『建設地』であると思う」

建設予定地の表記が異なるほかに、建設費の負担についても見てみよう。新タワーの建設費用は500億円と発表されている。この500億円は2006年5月設立の新タワー社が負担するが、今のところ、同社への出資企業は親会社の東武のみ。東武は2006年5月、2016年満期でユーロ円建ての転換社債型新株予約権付社債(CB)を発行し、最大で500億円を調達した。

一方で、「事業について発言権を確保する必要はあるかと思うので、株主になるのも方策」(山崎区長)と、当初、出資に前向きな姿勢を見せていた墨田・台東両区では、今のところ新タワー社への出資の話は進んでいないようだ。地元関係者によると、区議会でも出資に関する話は出ていないという。

前出の関係者は現状についてこう語る。「(タワーができる2011年は)4年も先ですからねぇ。タワー周辺の商業施設に出店するとか、出資するなどの判断は、今の段階では企業として難しいんじゃないですかね」。

 しかし東武は「国内有力企業に加え、放送局にも出資を求める」と前述の会見で説明していた。“国内有力”企業はさておき、建設予定地が決定して1年以上も交渉を行っているのに、放送局側が出資の姿勢を見せていない点は疑問が残る。

「大人の話として、(放送局側が)建ててくれと言っておいて、東京タワーが安いから新タワーはやめます、というのもないでしょう」。地元関係者はこう読むが、真相はまだわからない。最近の動きで公になっていることと言えば、新東京タワー社が、9月中旬に環境アセスメントの住民向け説明会を、墨田・江東・台東の3区で開いたことくらいである。

東武にとっては巨大プロジェクトであるため、進ちょく状況がわかりにくい点は致し方ない面もあるだろう。しかし、東武側がプロジェクト名「Rising East Project」(ライジング・イースト・プロジェクト)を発表したのは昨年の10月。

周辺地域の発展に寄与するタワーを目指すならば、もう少し具体像が見えてきても良さそうなものと感じるのは、記者だけだろうか。

写真1:地デジのフルパワー放送を記念してブルーにライトアップされた東京タワー=05年12月1日、東京・六本木で(撮影:吉川忠行)
写真2:2006年11月に東武鉄道が発表した新東京タワーのイメージイラスト(提供:東武鉄道)
写真3:新東京タワーの建設予定地=9月4日(撮影:吉川忠行)

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東京タワー
ライジング・イースト・プロジェクト(新東京タワー)



初出:2007年10月23日11時45分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-19

モノ売り、やめました

早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

モノに込められたストーリーを買ってください──。そんな一風変わった販売コーナーが、10月1日から東京・西早稲田の早稲田大学生協「コーププラザ ライフセンター」(石幡敬子店長)に設けられている。棚にはコットンマフラーやフォトスタンド、本のしおりなど、墨田区内の中小企業が製造・販売を手がける7社10品の“モノ”が並ぶ。

 ストーリーを紹介するのは、同区の地域活性化に取り組む「地域を経営するゼミ」(地域経営ゼミ、友成真一・同大学大学院教授)の学生たち。彼らはなぜ、“モノ売り”をやめたのだろうか。

なぜ生協で売ることに?

早稲田大学と墨田区は、2002年12月から産業に加え、教育やまちづくりなど包括的な産学官連携に取り組んでいる。産業以外の分野を含めた産学官連携は、全国初の試みで、地域経営ゼミは今年で5年目に入った。

各学部から学生が集まる同ゼミの特徴は、必ずしも1年間で成果を求めず、ゼミを終えてからも同区の活性化に取り組んでいる学生が多いことだ。

モノ売りをやめた学生は、過去にゼミを受講し、現在はゼミの活動を先導する「コーディネーター」と呼ばれる役割を担う学生6人と、今年のゼミ生有志。コーディネーターの中には、4年間ゼミにかかわり続けている学生もいる。

生協に販売コーナーを設置するきっかけとなったのは、1月に、5円玉に矢形の木を通すパズル「矢れば出来る」が、受験生などに人気だったからという。墨田区内の中小企業「工房いるか」が製造し、生協に販売委託したものだ。

このとき石幡店長が、大学の産学官連携担当の職員から、ゼミと墨田区の中小企業とのかかわりについて聞いた。そして石幡店長が、1月末に墨田区の中小企業センターに、コーナー設置を提案。新年度に入って、墨田区の同センターの担当者が、ゼミの学生に話を伝え、出展企業選びが7月ごろから始まった。「早大生協が大学のゼミと共同で販売コーナーを設けるのは初の試み」と石幡店長はいう。

こうして学生たちは、ゼミで毎年訪問して顔なじみの「工房いるか」をはじめ、墨田区内の中小企業の魅力をどう伝えるかを考えることになった。その結果、作り手や売り手が製品に込めた「ストーリーを売る」プロジェクトが始まった。

モノのストーリーを知ってもらうには

取り扱っている7社10品目の製品は、学生が以前から訪れている店や企業などが中心。1人の学生が2品ほど担当し、ストーリーをまとめた。ゼミで作る人に会う中で、製品ができるまでの話を聞いて欲しくなったものや、いつも店先で見かけるものなどを中心にセレクトした。

 ニューヨーク近代美術館「MoMA」でも取り扱いのあるペーパーフォルダー(楓岡ばね工業)や、サッカー好きの人が作ったサッカーTシャツ(FLAGS)、ひとつひとつデザインが異なる本のしおり(丸ヨ片野製鞄所)など、どれもが作り手の思いが詰まっているものばかり。

中には肌着店「肌着の大和」のロングトランクスのように、学生が店を訪れるたびに「いつも店先に飾ってますね」と店主に言ってしまうほど、彼らにおなじみの製品もある。

各製品の仕入れ品数は、10から20づつ。本のしおりは初回の20枚が完売し、追加発注した。出展企業側は、売れることよりも製品を知ってもらいたいという気持ちが強いという。

今回のプロジェクトを早大生に知ってもらうために、学内でのリアルな口コミ以外にも、メーリングリストを作ったり、ミクシィの各学部のコミュニティーにプロジェクトの情報を流したり、ネット上でも活動を行っている。授業後も教室に残り、店頭の飾り付けや告知方法の改善策などを夜遅くまで相談している。

プロジェクト終了後の企画も検討している。今回製品を買ってくれたり、興味を示してくれた人たちとはミクシィを通じて関係を持続したり、1度製品を作った人に会ってもらう「すみだツアー」なども行いたいという。

「私は学生さんと何回も打ち合わせをして、彼らから製品の良さを聞いてストーリーを知ることができました。店頭の飾り付けやメールでの告知も大事ですが、やっぱりゼミの学生さんから話を聞くのが一番伝わってきますね。単におもしろいもの、良いものを売っているのではなく、(地域活性化の)研究としてやっていることや『すみだの良さ』などを語って欲しいです」と石幡店長。製品やその企業の良さをわかっている学生が、今以上にストーリーを語ることへ期待を示した。

「財布のひもは堅いです」

現在の悩みは、売り場で足を止める人は多いが、なかなか購入までに至らないこと。メンバーの一人、商学部4年の松林さやかさんは、「販売を始める前はもっと売れると思っていました。でも、財布のひもは堅いです」と感想を語る。ゼミ生からは「生協では日用品じゃないと買いにくいのかも」という意見も出ている。店頭で「すみだの良さ」を伝えるのは簡単なことではないが、学生たちの墨田区の企業への気持ちは熱い。今後は店頭でもストーリーが伝わるように工夫を重ねていきたいという。

販売コーナーは31日まで。あなたも学生たちの熱いパッションを感じてみませんか?

写真1:モノを売るのではなく、ストーリーを売る「モノ売り、やめました」のコーナー=12日、東京・西早稲田の早稲田大学で(撮影:吉川忠行)
写真2:5円玉に矢形の木を通すパズル「矢れば出来る」(撮影:吉川忠行)

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モノ売り、やめました(mixiのコミュニティー)
早稲田大学生活協同組合
墨田区・早稲田大学産学官連携事業
すみだ中小企業センター



初出:2007年10月16日06時20分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-18

新タワー、いくらだったら来てくれる?

墨田区長と早大生が討論会

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

高さ610メートルの新東京タワーの建設が予定されている墨田区で11日夜、山崎昇・墨田区長と早稲田大学の学生が地域活性化について議論する討論会「墨田区役所を裸にする ~区長とのディスカッション~」が行われた。

 墨田区では早稲田大学と2002年12月に締結した事業連携協定に基づき、地元の中小企業も交えた地域活性化の産学官連携に取り組んでいる。この連携の一環として「地域を経営する」をテーマにした友成真一・同大学大学院(環境・エネルギー研究科)教授の「地域経営ゼミ」が、03年4月から同区内で行われている。例年2倍から4倍の競争率となる人気ゼミだ。

ゼミにはさまざまな学部から学生が集まり、地域がもともと持っている良さや特色、人材などの資源を活用し、地域の価値の最大化に取り組む。必ずしも1年間で成果を求めずに、長期的な視野で地域活性化に取り組むのが特徴で、ゼミ終了後も何らかの形で墨田区に関わる学生も多い。地域を活性化しようとすることで学生自身が活性化し、それを再び墨田区という地域に還元しているともいえる。

今年で5回目を迎えた討論会では、山崎区長と20人超の学生が討論を繰り広げた。「今後商店街を地域活性化にどう活用するのか」「消防車が入れない地域の防災対策は」など区政に関するものや、理想のリーダー像、新東京タワー関連など、さまざまな質問が学生から出された。区長から学生に問いかける場面もあり、予定の1時間を20分近く超えて議論が行われた。

新タワーと「お年寄りのコミュニティー」の矛盾?

政治経済学部2年生の鵜木彩さんから「区長が20歳に若返ったら区内のどこでデートをしますか」と問われると、山崎区長は、「そこが墨田区の問題。もう少し若い人に来てもらえるまちづくりをしていかないと発展しない。(2011年に)新タワーができれば、(東京タワーより200メートル高い)450メートルの展望台から2人で夜景を見ようとなるかもしれない」と答えたところで、山崎区長が「いくらだったら、新タワーの展望台の入場料がいくらだったら行きますか? ひとりじゃなくて2人だよ」と鵜木さんに逆質問。

「東京タワーだと途中で(大展望台820円に加えて600円の)特別展望台のお金を払わなければならないので、一番上まで行けて1人1200円くらいだったら行きたいです」(鵜木さん)

と答えると、山崎区長は思わずニンマリ。家族5人で来る人も考えると「全員で1万円になってしまう2000円は高いと思う」と、新タワーの事業主体である東武鉄道に持論を唱えている山崎区長にとっては、参考になる一言だったようだ。

山崎区長は新タワー建設後のまちづくりについて、「新タワーを中心に回遊してもらえる『江戸下町の庶民文化』を体感できる街を作りたい」と語り、六本木や表参道とは違った、地域の特性を生かしたまちづくりの方針を強調。また、商店街の活性化については、お年寄りのコミュニティーの中心となるようにしたいと語った。

これに対し、学生からは「商店街がお年寄りのコミュニティーの中心というが、新タワーができたら周辺商店街や地域が衰退するのでは」との厳しい意見も出た。山崎区長は、「ファッショナブルな街を望む人とは違い、下町や路地が好きな人を誘導したい」と答えたが、下町の魅力が何なのかなど、踏み込んだ返答には至らなかった。

「下町の良さについてもっと聞きたかった」

 討論会終了後、もっとも区長が良いと感じた質問「ベストクエスチョン」に選ばれたのは、前述の鵜木さん。今日の感想を尋ねると、「区長は質問しやすい人でした。街を好きになるのは人から好きになるのだと思います。ただ、新タワーだけではなく、下町の良さについてもう少し聞きたかったです。私は下町が好きなのですが、そういう部分を(観光地として)押しても良いのではと思いました」と語ってくれた。親の転勤で「地元」がないという鵜木さんは、墨田区を知ることで現在自分が住む街を見直していきたいという。なお、新タワー以外の墨田区の魅力を知りたかったという声は、他の学生からも多く聞かれた。

友成教授は討論会後の講評として、「コミュニティーやリーダーシップの話になったのは良かった。ただ、議会で毎日問われるようなマクロな質問ではダメ。新タワーによる経済活性化の先に何があるのかといった答えが、区長から出て欲しかったですね」と5回目を迎え、学生からの質問にそつのない回答をするようになった区長には、より墨田区に深く入り込んで、鋭い質問を用意する必要性があると学生に説いた。

同ゼミでは墨田区内での実地研究を重ね、来年1月に区内で行われる予定の住民や商店主向け報告会で研究成果を発表する。

写真1:11日夜、東京の墨田区役所で行われた墨田区長と早大生の討論会(撮影:吉川忠行)
写真2:学生からの質問に答える山崎昇区長(撮影:吉川忠行)
写真3:「ベストクエスチョン」に選ばれた鵜木彩さん(撮影:吉川忠行)

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モノ売り、やめました
(早大「地域を経営するゼミ」×生協×墨田区、07年10月16日)

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墨田区・早稲田大学産学官連携事業
墨田区
早稲田大学



初出:2007年10月12日06時06分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-17

光で描く610メートルの新東京タワー

地元有志「旦那衆」が東京・墨田の建設予定地で

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

高さ610メートルの新東京タワーを秋の夜空に──。2011年に隅田川花火大会で有名な東京・墨田区に開業予定の新東京タワーを光で表現するイベント「光タワープロジェクト」(平成光勧進プロジェクト実行委員会主催)が、6日の午後8時から午後10時半まで、建設予定地で行われた。

 新タワーを表現する光はサーチライトによるもの。タワーの形状と同じ3本の光と中央1本の光が夜空に交差し、610メートルのタワーを描き出した。会場周辺に設けられた受付では、実行委員会が作成した墨田区内の「観光グルメ地図」も配布された。

会場周辺や建設予定地に近い浅草の隅田川沿いでは、多くの人がカメラで光のタワーを写真に収めていた。

このプロジェクトを手がける実行委員会(佐原滋元会長)を構成する委員9人は、全員が墨田区在住。2006年12月に新タワーを光で表現しようという話が出て、07年3月に実行委員会が発足した。

実行委員会では、プロジェクトに賛同する610人の有志「旦那衆(だんなしゅう)」を区内外から募集中。今後も光のタワーの写真を募るフォトコンテストなどを行っていく。

旦那衆の男性(39)は墨田区出身。現在も区内で飲食店を経営する。今回のプロジェクトについて、

「祭りやみこしに通じるものがあるかもしれませんね。だから、みんなで楽しんで地元を盛り上げようという話が出てきたのではないでしょうか」

と語った。祭り好きな下町気質が、新タワー完成前からの地域活性化に結びついたようだ。

新東京タワーは、テレビの地上波放送がデジタル方式(地デジ)に完全移行するのに伴い、2011年から現在の東京タワーに替わり、首都圏の地デジ用電波塔の役割を果たす予定。

写真:秋の夜空に浮かび上がる光の新東京タワー=6日夜、東京・浅草で(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
光タワープロジェクト
Rising East Project(東武鉄道)



初出:2007年10月06日21時46分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-16

新東京タワーを秋の夜空に

高さ610メートル、10月に東京・墨田で

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

隅田川花火大会で有名な東京・墨田区に、2011年開業予定の新東京タワー。高さ610メートルの新タワーを光で表現するイベント「光タワープロジェクト」(平成光勧進プロジェクト実行委員会主催)が、10月6日の午後8時から午後10時半まで、建設予定地で行われる。

 新タワーを表現する光は、2台1組のサーチライトが1本の光を構成し、3本の光が610メートルのタワーを秋の夜空に描く。光のタワーがよく見えるのは、建設予定地から半径1キロメートル位の場所だという。

実行委員会では、プロジェクトに賛同する610人の有志「旦那衆(だんなしゅう)」を区内外から募集中だ。

ここで、新東京タワーとはどのようなもので、なぜ墨田区に建設されるのかについて触れておきたい。

新東京タワーとは?

新東京タワーは、テレビの地上波放送が現在のアナログ方式からデジタル方式(地デジ)に完全移行するのに伴い、2011年から現在の東京タワーに替わり、首都圏の地デジ用電波塔の役割を果たす。

新タワーの高さは地上610メートルで、350メートルと450メートルの部分に第1、第2展望台を設ける。第2展望台の外周には、ガラスで覆われた空中回廊を設ける計画だ。建設予定地は、東武伊勢崎線業平橋-押上間に隣接する、東武鉄道が所有する広さ約6万4000平方メートルの貨物用操車場跡地。08年に着工し、建設費約500億円をかけて、11年春の完成を目指す。

事業主体の東武鉄道は、新タワーの年間来場者数を、初年度540万人、開業後30年平均を270万人と見込む。

なぜ墨田区に?

新東京タワーの建設予定地をめぐっては、2004年にNHKと在京民放テレビ5局で構成する「在京6社新タワー推進プロジェクト」が構想を発表後、池袋や浅草、足立など、15の候補地が激しい誘致合戦を繰り広げた。

 05年3月、放送事業者が墨田区の押上・業平橋地区を優先的に交渉する「第1候補地」に、さいたま新都心地区を「第2候補地」に選定。その後、電波特性などを調査し、06年3月に押上・業平橋地区を建設予定地に決定した。

放送事業者が押上・業平橋地区に決定した理由は、事業主体と建設予定地の確保ができていることに加え、第1候補地に選定時の条件である、

◆隅田川をはさんだ台東・墨田両区の区民と行政が一体となった、観光やまちづくり活動の支援や推進が図られること

◆地元住民の受け入れ態勢があること

◆都市防災に関する行政支援がなされること

この3点が、ほぼ順調に進んでいると判断したためだ。

おじさんだけじゃない“旦那衆”

新タワーの高さと同じ人数の有志「旦那衆」を集める「光タワープロジェクト」。6日昼現在で174人の個人・団体が集まっている。“旦那衆”と聞くと、地元で商店を営む「おじさん」のイメージがあるが、実行委員会のホームページには「女性はもちろん、区外、外国人の方、グループでの参加も歓迎します!」と、男女、区内外を問わず広く募集中だ。

会員は、議決権が有る「運営会員」と趣旨に賛同する「賛助会員」の2種類。どちらも会費は1口1万円で、ホームページ上の旦那衆名簿「光勧進帳」に名前が記載される。

実行委員会を構成する委員9人は、全員墨田区在住で、同区内でまちづくりを提案するNPO「向島学会」の会員。2006年12月に光でタワーを表現したいという話が出て、07年3月には会員以外も加わり、実行委員会を発足した。事務局長の友野健一さんは、「発足当初は向島学会に所属していない人が半分くらいだったが、活動を続ける間に、気が付くと全員が会員になっていました」という。

光で新タワーを描いた後の活動については、「フォトコンテストやエリアマップの作成を検討しています」(友野さん)とのこと。新タワー完成前から地元の新名所を活用したまちづくりを行っていくようだ。

写真1:光タワープロジェクト
写真2:新東京タワーの建設予定地(撮影:吉川忠行)

■関連リンク
光タワープロジェクト
Rising East Project(東武鉄道)
向島学会



初出:2007年09月06日21時00分 吉川忠行/オーマイニュース

2008-09-15

祝! 復活30回記念の隅田川花火大会

2万2000発が夜空を彩る

[私が過去にニュース媒体で出稿した記事の再掲です]

 夏の風物詩となった隅田川花火大会(同実行委員会主催)が28日夜、「新東京タワー」の建設地に決定した墨田区と、浅草に代表される台東区の間を流れる隅田川で行われた。30回記念の今回は、昨年より2000発多い2万2000発の花火が打ち上げられ、色とりどりの大輪の花が夏の夜空を彩った。

隅田川の花火は、1733年5月に行われた水神祭の際、疫病による死者の慰霊と悪疫退散を祈願して花火が打ち上げられたことを起源とする。第2次世界大戦、そして戦後は交通事情の悪化で1961年を最後に中断していたが、78年に復活し、今回で30回目を迎えた。

花火大会は午後7時10分に「祝30回隅田川花火大会」と題したスターマインと速射スターマイン計1614発の打ち上げでスタート。「この花火大会は立ち止まって見ることができません」、「写真を撮っている方は1枚撮ったら進んでください」──。隅田川に架かる橋は交通規制が実施され、警察官が立ち止まろうとする観客に移動を促した。

また、隅田川には屋形船が30艘(そう)ほど浮かび、大輪の花が夜空を焦がすと、船上からビール片手に花火見物する人と橋上から見物する人から大きな歓声が上がった。

大会のフィナーレでは、「千紫万紅 隅田の花嵐」と題し、計6000発のスターマインがラスト5分間に第1・第2の2会場から3000発ずつ打ち上げられ、記念大会を盛り上げて締めくくった。

今年は翌日が参院選の投票日と重なった。このため、同実行委員会では6月下旬に「100万人近い観客を整理誘導する安全対策面で区や警察など関係機関が十分な体制をとれないことや、交通規制区域内の投票所で円滑な投票に支障が出る」として、雨天の場合は順延せずに中止することを決定していた。

写真:復活30回を記念して2万2000発の花火が夏の夜空を彩った隅田川花火大会=28日、東京・隅田川で(撮影:吉川忠行)



初出:2007年07月28日21時20分 吉川忠行/オーマイニュース